gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


少し大きなメッセージを文章にする

はじめに

頭の中だけで説明を組み立てるのが、難しいメッセージがあります。たとえば、書こうとしているテーマや問い自体がはっきりしていないとき。あるいは、結論までの道筋が、頭の中でこんがらがっているときや、その結論すらはっきり見えないとき。

そんなメッセージなど文章にしない、という手もありますが、それでも何とか文章に仕上げたい、いや、そういうメッセージこそ、しっかりと文章にしておきたいこともあります。ここでは、こういったメッセージを「少し大きなメッセージ」と呼ぶことにします。

こうしたメッセージをいきなり文章にしようとすると、失敗することもよくあります。一度に書き出すには情報量が多すぎて、同じことを繰り返したり (冗長)、最初と最後でちがうことを書いてしまったり (論理矛盾)、流れの一部が抜けていたり (論理飛躍)。

こうした少し大きなメッセージを文章に仕上げる技としてぼくがよく使うのは、比較的はっきりしている小さなメッセージを文章として完成させ、それを組み合わせて、大きなメッセージに育てるというやり方です。

ここでは、その方法を具体的に紹介します。

 

1. ハイライトを書く

まず、あなたの頭の中に、ぼんやりとしたメッセージがあるのならそれを短い文章に書き出します。たとえば、こんな感じ。

道具とは何か。道具とは人間の条件である。

これを、書きたい文章の仮のハイライト highlights としましょう。この例では、問いと答えの案が入っていますが、問いだけでも、答えだけでも、そのどちらでもないものでもかまいません。そして、そのハイライトを見ながら、順番など気にせずに、頭に浮かぶアイディアをひとつのごく短い文章としてまとめます。

 

2. 小さなエッセイを書く

この短い文章をかくコツは、それぞれをひとつの作品として完結した文章に仕上げることです。この文章だけを読んだ人も、その内容をしっかり理解できる文章を目指します。これは「小さなエッセイ (論文)」と呼ぶことにします。

上のハイライトを見ながら、ぼくは、つぎのような小さなエッセイを5つ書きました。

 

3. ハイライトをリライトする

小さなエッセイを書くうちに、メッセージがより具体的になることもよくあります。そんなときは、ハイライトの文章も書き直します。今回の場合、3つめの「c. 人間性と道具」を書いているあたりで、上のハイライトが、以下のような具体的な形に育ちました。

道具とは何か。目に見える「もの」に捉われてはいけない。道具をつくる技術や、道具を絶え間なく改良してきた人間の意欲こそ、道具の重要な要素である。その意欲こそ、人間の起源である。

伝えたいメッセージが、大分はっきりしました。もしこの段階でハイライトがあいまいなままでも、あまり気にする必要はないと思います。とにかく次の作業へ進みます。次は、ハイライトの内容を伝えるために、この5つの小さなエッセイをパーツとして、より大きなエッセイの完成を目指します。

 

4. 小さなエッセイの役割を考える

5つのパーツをひとめで眺めることができるよう、1か所に集めます。そして、ひと通り読み直します。読み直しながら、それぞれの小さなエッセイの役割を考えながら、並び変えます。

「e. キーイノベーション..」が導入であり、「問い」の設定する役割になると考えた訳です。ただし、その問いそのものをはっきりと文章にはできていませんので、加筆する必要もありそうです。

それにつづく「a. されど道具」、「b. たかが道具」、そして「c. 人間性と道具」が人にとって道具とは何かを示す具体例になります。加えて、「d. ルーシー..」の最初にある石器を使う部分も、その具体例です。そして、その後半こそが一番大切な部分、具体例4つを組み合わせて見えてくる新しい結論を導く役割を担っています。

 

5. 役割を意識してリライトする

そこでまず、最初の「e. キーイノベーション」をリライトします。今回の導入という役割を考えると、この文章はやや長すぎますから、ばっさり削ることにします。まず、一番残したい部分を選びます。

このパーツでは、多くの人が見たことのある身近な生き物としてツバメを紹介し、ツバメがツバメとして生き生きする瞬間が飛ぶことであることをこの記事を読んでくれる人に伝えたい、と考えています。とすると、「こいつらは、ほんとに飛ぶのが好きだよ」という牛舎のおじいさんの言葉は外せません。そして、できるだけ説得力のある形で、ツバメの飛ぶ姿がどれくらいかっこいいのかを伝える文章をつづけてから、問題提起として、以下の文章を書き加えました。

「ツバメは、飛んでいる瞬感に、飛びながら飛ぶ虫を追いかけている瞬感に、躍動する。…そしてぼくは、このツバメたちのように生きたいと思ったりする。では、人間であるぼくたちにとっての飛ぶこととは、いったい何なのだろう。

そうすると、次につづくキーボードを叩くギークなお兄さんの話しの役割も、自然に説明できます。その勢いで、具体的例をあげる小さなエッセイのリライトに作業を進めます。具体例の文章は、基本そのままにしましたが、「c. たかが道具」を削ることにしました。具体例が多すぎると感じたからです。

そしていよいよ「d. ルーシー..」のリライト。この文章は長いですし、構造もやや複雑ですから、思もう一度最初から読み直しました。

そしてまず、このパーツの前半の具体例は、ほぼそのまま使うことにしました。それから最後のまとめ。大切なことは、最初のパーツで書いた「問い」にしっかり答える形になっているかどうか。それを意識しながら、答えになるパラグラフを、少しリライトします。

では、人間はどこで人間の道を歩き始めたのか。その最初に道具があり、それを偶然ではなく意志をもって熟練しながら使うことに、とんでもない幸福感をもつルーシーがいたのではないかというのが、ぼくの仮説である。

よしよし、あともう少し。最後の短い文章は、ハイライトを強調する部分としてぜひ残しておきたい部分です。この記事を読んだ人が、このセンテンスだけを頭に残してくれてもいい、という大切な部分です。

Humanity は道具とともにある。

あとは、頭からとおして読み直しながら、小さな流れを整えて完成です。全体としては、ツバメの飛ぶ姿やだだだだとキーボードを叩くナードなお兄さん、ピカソの彫刻を踊るようにスケッチする若い芸術家、あるいは、石器を熟練した技で使いこなすルーシーがややごちゃまぜになって、それが、Humanity としての道具の意味につながればもっとうれしい、というねらいがあります。

こうして、以下の記事ができあがりました。

 

おわりに

このやり方の鍵は、最初に仮のハイライトを文章にすることと、頭の中で形になっているパーツを小さなエッセイとして完成させることの2つだと考えています。そうすることで、小さなエッセイを書きながらハイライトを育てることができますし、小さなエッセイそれぞれが完成していることで、安心して(不完全な部分を頭で補ったり、意味の流れを読み違える心配をしたりせずに)全体を眺めたり、部分にフォーカスしたりすることができるという仕組みです。

このやり方は、小さなエッセイがもっと長い場合や、もう少したくさんある場合にも使えます。ぼくの場合、小さなエッセイがたぶん10編を超えると、別の工夫も必要になりますが、それはまた場を改めて。

この作業をとおして、去年の12月には、ぼくにとってまだ漠然としていた人間にとっての道具の意味を自分なりに整理できた考えていますが、いかがでしたでしょうか。