on outline processing, writing, and human activities for nature
あれは5年前の2月。
職場そばのスターバックスで見かけた、たぶん大学生。細身の彼は、大変意気揚々と大きなカバンをさげ、ぼくの隣の丸テーブルにすわる。
そして、これ以上ないくらいの軽やかさで、荷物の入れすぎで変形した、その大きなカバンのファスナーをきゅうと開く。
そこから取り出したのは、いい感じで使い込まれた折りたたみキーボード。何かの目印なのか、いつくかのキーにはられた蛍光色の丸いシールもところどころ剥がれている。
テーブルの上で、目にも留まらぬ速さでかしゃんと開いたあと、今度はだぼだぼジーンズの右ポケットから iPhone をするりと取り出し、折りたたみキーボード中央奥にある小さな装着具にとりつける。
座ってからそこまでにかかった時間がわずか 2.5 秒であったことだけで、驚くのはまだはやい。そこから彼は、腕まくりするやいなや、だだだだとキーを叩き始める。
その楽しそうな様子といったらなかった。だだだだ、だだだ、だだだだだ。まわりの空気が黄色くなるくらいに楽しそうなんだから、彼以上に幸せな人は、たぶん世界中に100人いないなず。
彼は、道具を道具として使いながら、道具は彼をとおして、自分たちの存在を謳歌している。