on outline processing, writing, and human activities for nature
万年筆を使いはじめたころ、たとえば職場へ行く途中のカフェでフリーライティングしようとして、その書き出しでニブ (ペン先) からインクが出過ぎて文字がニジんでしまうことがあった。
すごく困った訳ではないけれど、ぼくがもっている万年筆の短所なのかなと、ちょっと残念に思ったりした。
その内、たとえばペンを胸ポケットに挿しておくと、この書き始めのインク過多が起こり難くなることに気づいた。
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万年筆のインクは、油性ボールペンなどのインクにくらべ粘度の小さな、さらさらの液体。浸透圧を使ってインクをニブ (ペン先) へ運ぶので、そのさらさらのインク流が、インクタンクからペン先にまで繋がっている (万年筆の書くしくみに興味のある方は、こちらの記事もどうぞ)。
ここで荷物を入れたザックや鞄の中でペンが下向きに、つまりニブが下に向いて、タンク中のインクとフィード (インクをニブに運ぶ部分) が繋がっている場合を考える。そして、カフェに着いたあなたは、疲れていてザックをドカッと席に置いてしまったとしよう。ここが大切なシーン。
万年筆の入ったザックをドカッと椅子に置いた瞬間、万年筆タンク内のインクは慣性の法則でペンの下側、つまりニブやフィードへと移動しようとする。ドカッと置く速度が早いほど、そしてインクの量が多いほど、この力は大きくなる。
つまり、書き始めにニブからインクがたくさん出すぎることがあるのは、もち運ぶ途中の「ドカッ」によって強制的にフィードやニブへ運ばれたインクが原因、というのがぼくの予想。だから、書き始めのインク過多は、ぼくのもっている万年筆だけでなく、他の多くの万年筆、そしてさらさらのインクを使う他のペンにも共通した現象でないか。
で、今度はペンが上を向いている場合を考える。この場合、ドカッと置かれたときもインクはタンクの底へ動こうとするだけで、ニブやフィードにインクが流れ込むことは少ない。だから、ペンをある程度上向きにして運べば、書き始めにインクが出過ぎる場面は少なくなるだろう。
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そう考えてから、万年筆をザックに入れて運ぶときは、ペン差しのような隙間ポケットに上向きに挿し、万年筆キャップのクリップで、ポケットの縁を挟んでおくようにした。
襟のあるシャツを着ているときは、胸ポケットや前たての第2ボタンと第3ボタンのあいだに、上向きにクリップでとめて挿しておく。
野外でTシャツにジーンズなら、首回りの襟に挿しておくこともある。ジーンズなら前ポケット[1]。ポケットの縁をクリップで挟むようにして上向きにしておけば、たぶんオーケー。
書き始めのインク過多は今のところほぼ無くなり、長時間もち歩いたあとでも、安定した流量の書き心地を楽しめるようになった[2]。
だから、上を向いたペンと歩こう。