gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


ペン日記: Opus 88 Koloro Demonstrator

このところ、一番よく持ち歩きながら使っているペンは、Opus 88 Koloro Demo。Koloro はエスペラント語で、色という意味。英語にすると colour。「コロロ」あるいは「ころろ」と日本の文字で書くとかわいい感じ。

Opus 88 は、台湾のメーカーで1977年創業。Opus は音楽の世界で作品番号という意味をもつ Opus (Op) に、そして 88 は創業した1977年が台湾カレンダーの88年であることにちなんだとのこと。

30年以上つづくメーカーだけど、北アメリカやヨーロッパのリテイルやレビューアーの記事や動画が見つかるのは、この1月ころから。日本でこの Opus 88 のペンを扱っている店が見つからなかったので、ぼくはアメリカの Pen Chalet というリテイル (販売店) にオンラインで注文した。

Koloro は、アイドロッパー (スポイト) でインクを補給する、いわゆるアイドロッパーペン。軸の大きな割合がインクタンクなので 3.5 ml 以上のインクを蓄えることができる。通常のコンバーターの容量が 0.7-1.0 ml くらいだから、その3-5倍の大きさ。これくらいの容量だと、ぼくの場合、一度インクを補給すると少なくとも一週間はインク切れを心配せず持ち歩ける。

ニブ (ペン先) はドイツの Jowo というメーカーがつくった Steel 製で、6番という大きなニブ。ニブには大きさを示す番号があり、この数字が大きいほどニブサイズも大きくなる。余談だが、Jowo は数少ないニブを生産するメーカーのひとつで、英語圏のペン好きな人たちも敬意を示すかのようにドイツ語的?なアクセントで「ヨぅぼぅ」(カタカナを強く、ひらがなは弱く。小さな文字はさらに弱く) と呼ぶ人が多い。

さらに余談だけど、日本のペンやインクの名前も、日本語圏以外のペン好きはできるだけ日本語的に発音しようとする人が多い。これは、日本のメーカーがつくるペンやインクなどの品質の良さやオリジナリティの高さだけでなく、その製品が生まれ育った文化に敬意を払っているからかなと、勝手に想像している。

万年筆を好きになってからこの1年、日本の文房具の評価がぼくの想像していた以上に高いことを、何度も実感するときがあった。日本で生まれ育ったおっさんとして、少し誇らしいところ。ぼくは何もしてないし、実のところ、ずいぶん長いあいだ無視していたんだけれど.. (ごめんなさい)。

で、Koloro。このシリーズには、Demo じゃないスタンダードの Koloro もある。エボナイトという古典的な素材と半透明のアクリルを組み合わせた、センスの良さを感じるデザイン。ぼくが、このかっこいいスタンダードじゃなく Demo を選んだ最大の理由は、ニブが大きいこと。スタンダードの Koloro には Demo よりひとつ小さい5番ニブがついている。

大きなニブのペンで書くとき、紙と指先との距離が大きくなる。この距離が心地いい。Demo のニブの長さを測ると 24 mm。この数字も覚えておこう。

Koloro Demo はひとめ見て分かるようなオーバーサイズペンで、キャップしたときの長さは 148 mm。皆さんご存知の Safari (140 mm) もかなり長めのペンだけど、Demo はそれより 1 cm 近く長いし、大きなペンの代表格の Montblanc 149 (144mm) よりも、さらにひとまわり大きい。

ポストできない (キャップを軸後端に被せることができない) つくりになっており、キャップを外して机に置き、軸だけを持って書くのでも安心感を覚えるような大きさ。ニブも含めた軸の長さは 138 mm だから短い方じゃないけれど、バランスがいい。

セクション (ペンを指でもつ部分) の直径が 10 mm 以上と通常のペンより少し太いけど、今のところ長時間書いても、セクションの太さを感じないのが意外な発見。

軸が透明だから、インク残量も書きながら見てとれる。そして、この大きめのインクタンクの中心を通るがっしりした黒いピストン軸の先端には、シャットオフ・バルブと呼ばれるタンクを閉じる栓がついている。

軸後端の透明な円柱状のブラインドキャップを左に回すとバルブが上がってニブ側にインクが流れ、右に回すとタンクからニブにインクを流れないよう、バルブがしっかりと閉じられる構造。普段はこのバルブを閉じておき、長い時間書くときはこのバルブを開ける。シャットオフ・バルブをもつペンは、日本式アイドロッパーペン Japanese-style eyedropper pen と呼ばれる。

このシャットオフ・バルブを閉じ、A5 サイズのカード2枚書いたあとでもインク切れしなかった。シャットオフしたまま A4 の紙2枚以上に小さな文字でびっしり書ける、という記事を読んだこともある。

アイドロッパーペン最大の短所は、インク漏れしやすいこと。インクタンクの容量が大きいので、たとえばインクを半分使った状態でも空気がたくさん (通常のコンバーター容量の倍以上) タンク内に含まれることになる。この空気がクセモノで、温度が上がると膨張してニブや軸とセクションの接合部などからインク漏れを起こす。

インク漏れの原因になるタンク内の空気の膨張は、ペンを長時間使ううちに手の体温がタンクに伝わるだけでも起こるそうだが、このシャットオフ・バルブを閉じれば、ニブからのインク漏れを防ぐことができる。

加えて、セクションと軸の接合部、あるいはキャップと本体の接合部のネジが頑丈にでも細かく切られているだけでなく、セクションと軸の接合部にはゴム製のガスケットもつけられており、インク漏れを起こさないぞというデザイナーの意志が伝わってくる。

さらには、軸やセクション、キャップをつくる (半) 透明素材の厚みと密度の高さも、このインク漏れを防ぐ安全性に一役かってるような気がする。

インクをたっぷり入れて残り具合を気にせず、流れのよいインクをふんだんに使いながら、指先に力をいれずにペンの重さだけで書きつづけられるようにデザインされているのだと思う。

実際にこのペンを使っていると、その何倍も高価なハンドメイドペンに近いバランスと、ウェットで適度に滑らかな書き心地の良さを感じる。少なくともぼくが使っている Demo のニブは、Steel ニブ特有のフィードバック (抵抗感) も心地よい程度。フィードバックが強めという Aurora のペン (こちらもぼくの好み) よりも少し滑らかな印象。

直線の多い量産しやすそうなデザインでありながら、ハンドメイドに迫る使いやすさをつくりだすことに成功した万年筆だと思う。

写真は、左から Edison Pen Menlo (Draw filler)、Opus 88 Koloro Demo、Lamy 2000。