on outline processing, writing, and human activities for nature
2019年7月から Emacs の org mode というアウトライナーをつかっています。思いついたアイディアのメモをとる、かきながらゆっくり考える、あるいは今かいているような気軽な文章やもっと長い文章をつくる場所として、一日の中でもいちばん長くつかっている道具のひとつです。
最近、その Emacs のバージョンを上げる作業をしました。ずっと楽しみにしていた作業です。この7月末に公開されたバージョン 29.1 へのアップデート。
そしてその流れで SKK (Simple Kana to Kanji conversion program シンプルなかな漢字変換プログラム) という日本語 IM をつかいはじめました。Emacs の IM です。今よく使われているのバージョンは、名前の先頭に D をふたつ付けて DDSKK (Daredevil SKK) とよばれます。
Daredevil。向こうみずの勇者のような SKK という意味でしょうか。ちなみに SKK にもいくつかの意味がこめられているようですが、それはまた別の機会に語りあいましょう (笑)。
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ぼくはこれまで日本語入力に「かわせみ」という IM をつかってきました。かわせみは macOS 用日本語入力プログラムで、物書堂というかっこいい名前のメーカーがつくったアプリです。軽さとカスタマイズのしやすさが、このプログラムのウリでしょうか。
ほかの IM、たとえば macOS 組み込みの日本語入力プログラムだと確定のたびにreturn (enter)
を叩く必要があります。ぼくはこれが苦手でした。大袈裟かもしれませんが、何度もreturn
を押すうちに文章をかくリズムがくずれてしまう感じ。
return
を何度も叩くのは日本語入力の宿命とあきらめてはまた、何とかしたいという気もちが復活..を懲りずに繰り返していた中、「日本語でかくときにも英語をタイプするようなリズムをつくりたい」というぼくの嘆き (?) を見かけたアウトライナー論のTak.さんから、すばらしいアドバイスがとどきました。
(1) かわせみという IM ではreturn
だけでなくshift + space
でも確定できる設定がある、そして (2) 短い文節ごとに shift + space
確定を繰り返すと英語をタイプしているような感覚でタイプできるかも.. という内容のアドバイスでした (感謝!)。生きているあいだは不可能と思っていた「return key の呪縛」から自由になる方法を、やっと手にしたのです (涙 ← ウソ)。
この経緯は「キーバインドでリズムをつくる」にかいてありますので、興味をもった人はよんでみてください。
記録をみなおすと、かわせみをつかい始めたのは2020年4月ですから、かわせみとのつき合いも3年以上になります。かわせみの軽快さとカスタマイズしやすさはすばらしく、ぼくにとっては今もお気に入り IM のひとつです。
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しかしそのかわせみに、その後残念な点がみつかりました。Emacs との相性が少し悪い。
稀にですが、変換途中で Emacs が一時的にフリーズし、画面左下に変換窓が現れたあとにキーボードの反応がおかしくなることがあります。Emacs のバージョンを 28.1 に上げたころから起こるようになった不具合です。
で、この症状は 29.1 でたぶん改善されたのですが、今度はインライン入力ができなくなりました。
原因がかわせみという確証はありませんが、別の IM、たとえば macOS の日本語入力プログラムに切りかえるとインライン入力が復活します。なので、かわせみと Emacs の相性が原因でインライン入力できなくなった可能性が高いと予想しています。
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さて SKK。
この IM のことをしったのは、emacs-jp.slack.com でした。Emacs コミュニティの人たちが情報交換する場です。
Emacs をバージョンアップしたらインライン入力できなくなった、というぼくのかきこみに「ddskk をつかえばインライン入力できない問題も解決しますよー」という意味のメッセージがありました。
たしかにEmacs 用につくられたかな漢字入力プログラムなら、かわせみで経験したような不具合は起こりにくいはずです。
ただし、Emacs との相性はいいかもしれませんが、普段からつかう日本語入力プログラムになることは期待しませんでした。かわせみ3の「shift + space
で確定」という機能が自分にぴったりで、それ以上のものを想像できなかったからです。
でもたぶん、それはまちがいでした。
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DDSKK で漢字変換しながら入力する手順をかいてみます。
(つかいはじめて数日ですから勘ちがいしている可能性も高いので要注意。以下はローマ字入力を前提にした説明ですが、かなキー入力も可能です)
まず、ひらがな確定で入力するのが基本になっています。つまり、ひらがなはreturn (enter)
を押さなくても最初から確定されています。
漢字への変換は、単語や短い文節限定で変換していきます。原則その単語のひらがなを入力する直前にshift
を押し、そのまま最初のアルファベットキーもタイプすると、変換するマークである「▽」が先頭につきます。
単語のひらがなをタイプし終わったところで space。「▽」は変換候補のしるしである「▼」に変わり望みの変換候補が現れたら、そのままつぎにつづく文字をタイプすると候補が確定され「▼」が消えます。ここでもreturn (enter)
を押す必要はありません。
つまり、この DDSKK の漢字変換いちばんの特徴は、ほとんどreturn
を押さなくていいこと。そして送りがなのつけ方も、たとえば ArawaReru (現れる) など送りがなにする最初の文字でshift
すれば決まるので100%自分でコントロールしている感覚があります。地味ですがうれしい特徴。
単語や短かい文節で入力するので目当ての漢字が最初に表れる確率が高く、文章をかくのを止めてspace
を何度も押す場面もほとんどありません..。
モードの切り替えの設定もいい感じ。かな→カナはq
で、カナ→かなはもういちどq
。かな→半角英数はl
(小文字のエル) で、半角英数→かなは C-j
(= control + j
) で切り換わります。ほとんど手をホームポジションにおいたままでモード変換できます。
しかもモードによって、カーソルの色が変わるのが便利です。入力か所から目をはなさずに、今自分のいるモードがわかるからです。
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DDSKK をつかったかな漢字変換は、かわせみとちがうカタチで、でも同じようにreturn
を押さずにリズムをつくりながら日本語の文章をタイプできる感覚を与えてくれます。
(いや、ほんとスバラシイ..)
その一方で、単語や短かい文節ごとに今までよりも頻繁に変換を繰り返す作業をぼくがどれくらい煩雑に感じるか、そして事前に変換する単語を決めて変換shift
を押しつづけることができるのかなどが、気になるところです。
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この SKK を最初につくったのは佐藤雅彦さん。1987年のフランスへの旅がきっかけだったそうです (SKK の誕生秘話)。今も多くのボランティア方たちの力での SKK の開発がつづいているそうです。
解説とインストールの手順は、以下の DDSKK マニュアルがくわしいと思います。
「SKK (Simple Kana to Kanji conversion program) Manual」
SKK の Github の README も参考になりました。
ちなみにぼくは DDSKK 本体を MELPA でインストールしてから、辞書SKK-JISYO.L
をM-x skk-get
というコマンドをつかってダウンロードしました。
この場合、ぼくの環境では DDSKK 本体はディレクトリ ~/.emacs.d/elpa/develop/ddskk-(version number?)/
にダウンロードされ、辞書SKK-JISYO.L
などはディレクトリ ~/.emacs.d/skk-get-jisyo/
に入りました。init.el
で path をとおすときのご参考まで。
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この文章も DDSKK をつかってかきました。かわせみ3をつかった変換がしみついている身体で、DDSKK 独特のかな漢字変換の手順を覚えながらかくのに、時間がかからなかったといえばウソになります。
でもそれが、ある満足感を味わいながらの時間だったことは、胸を張っていえることです。
そして改めて、このきっかけをつくってくださった emacs-jp.slack.com の皆さんにも感謝。