on outline processing, writing, and human activities for nature
まず、本書の目次をゆっくり眺めてください。
シンプルで、でもいろいろなことが伝わってくるだけでなく、いろいろ考えたくなるような目次だと、最初に感じました。
いろいろ考えたくなるというのは、たとえば「発想のタイムライン」って何なのか。そしてそれは「発想のアウトライン」とどうちがうのか。同じくそれは「文章のアウトライン」と何がちがっていて、そもそも最後の「文章」ってなにか。
最初はよく分らないような気がしますが、ゆっくり眺めると、目次にもヒントがしっかり含まれていることに気づきます。Tak. さんの文章には、予備知識の少ない人も困らないような気遣いが行きとど届いています。不要なひねった表現も少ないはず。
とすれば、最後の「文章」はもちろん、ぼくたちのしっている文章のことであり、「アウトライン」もごくシンプルに「要するに目次です」と捉えておいて、たぶん大丈夫。
「タイムライン」も、Tak. さんなら元の英語圏の使われ方を考えた意味だろうから、日本独特のいわゆるカタカナ用語を Google しなくてもいいだろう。
とすれば、そんなに構える必要はありません。Process 1 の「発想のタイムライン」は、時間軸に沿って頭に浮かぶアイディアや文章の断片、文章構成のアイディアなどをそのまま文字として捉えたものじゃないだろうか。
(おぉ、これこそアウトライナーの得意技!)
Process 2の「発想のアウトライン」は、「発想のタイムライン」で文字にしたアイディア断片を並び替えたり (分類ではない)、削ったり、かき加えたりしながら、大きなアイディアを表現するアウトラインかもしれない。
(なんと、これまたアウトライナーの得意技!!)
とすると「文章のアウトライン」は..、という形で、本文をよむ前にある程度の予想をたてることができます。
この目次だけからも、この本が一朝一夕にかきあげた本ではない、著者が誠意をこめてていねいにつくり上げた作品であるとよみとれます。
上に挙げた目次は、いちばん大きな項目だけですが、その下位にある小さな項目をみるとさらに、興味深いヒントがひとつ解像度を細かくした形で、現われてきます。
こうやって目次を愉しむことは、本をよむ大きな醍醐味のひとつと、ぼくは考えています。そしてこの本の場合、たぶん30分くらいは、たっぷり目次を満喫することができました。
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では、具体的に本の一部をみてみましょう。
たとえば最初の「Talk A「書くためのアウトラインプロセッシング」前史」では、この本のテーマがクリアに説明されています。
Tak. 少年のかいた (大人になった Tak. さんがそれを想い出しながらかいた) 作文が登場します。アウトライナー界隈で不朽の名作といわれる (?)「海」です。
いったいキミは、海が好きなのか嫌いなのか。分るんだけど分らないヨ。
このもどかしさというか、いらだたしさというか、何ともしがたい気もち。どうすればこれを、簡潔で分かりやすい、誤解されない文章にできるのか。
これこそが、この本をとおしてぼくたちが著者 Tak. さんと一緒に取り組む大きな「問い」なのです。
頭に浮かぶぜひとも人に伝えたいアイディアを、簡潔で分かりやすい文章や誤解されない文章、たとえ長文になっても、多くの人が読みとおしやすくする文章としてつくり上げる方法。これをアウトライン・プロセッシングというアプローチから説明するのが、この本の大きな目標だと、ぼくは理解しています。
アウトライン・プロセッシングとは、アウトライナーというアプリケーションの機能を活かしながら、文章をつくるプロセスを指します。
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もう少し Talk A の話しをしましょう。このパートは Tak. さんの自分語りのような形をとっています。
文章をかくことはできるけれど制御できなかった Tak. さんが、あの〈シェイク〉というアイディアの有効性に気づき、アウトライン・プロセッシングについて自分でしらべ始めたときの物語りです。
この Tak. さんの自分語りは、しかし多くの人にとっての「モデル」としてとてもうまく機能するものだとぼくは理解しています。
あなたの経験とこの物語りは、そっくり同じでなくていいし、何ならまったく逆のパターンでもいい。
そういう文章と自分の人生の関係を送った人たちが、自分にも役立つことのできる「モデル」として共感し、理解できるユースケース。
そこから始まっているところが、この本の価値を大きく高めているというのが、ぼくの仮説です (にやり)。
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さて、ここからはとりあえず、本書をよんでからのお愉しみにしましょうか。
力作ですが、大変読みやすい文章。本文を読み進めると、よい意味での意外性もたくさん盛り込まれています。
奇をてらった構成ではなく、意表をつくアプローチでもない。にも関わらず、おそらくこの分野の文章としてオリジナリティの度合いが高い内容 (つまり他では読めない内容) が、難しい用語やカタカナ用語を極力使わず、やさしい言葉で解説されています。そこもすごい。
Tak. さんによると、この本のターゲットは1万字から10万字程度の長い文章をかく方法。で、ぼく個人の理解では、ここで紹介されている方法は、5万字以上の長い文章でとくに効力を発揮すると予想しています。本一冊くらいの分量です。
その一方で、たとえば本の一章分程度の分担執筆 (5千字から1万字くらい) の原稿づくり、あるいは雑誌などの連載記事の執筆でも本執筆とはちがう形で、とくに最初の「発想のタイムライン」づくりからそれを「文章のアウトライン」に育てる方法などに重点を置いた形で役立つと考えています。
そうそう。いわゆる論文のかき方の本ではありませんが、そういう本にかかれていない、でも論文原稿の執筆に大いに役立つ方法も解説されています。通常の投稿論文やその何倍から10倍くらいの分量の学位論文執筆にも役立つ可能性が高いと思います。有名な論文のかき方などの本と併読すれば、この本の価値もよく分ると思います。
よくいわれることですが、論文は型が決まっていて、誰もが文章をかきやすくする工夫がされています。でも、それに甘えっぱなしの文章は、やはり流れが制御できていなくてよみ難い、冗長、論点が不明解なことが多い、なんてレビューアーにいわれてしまいますよね。
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ご存知のとおり、本書はアウトライン・プロセッシング本の三作目。Tak. さんのライフワーク集大成のように感じています。でも、これを裏切る、これからの展開を期待していたりもします。
そして最後にもうひとつ、上に挙げたような長文をかく機会がなかった、というアナタに。文章をかくという営みと自分の人生との関係をほんの少し、いやたぶん、大きく変えてくれる本だと、ぼくは確信しています。