gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


Org との日々 #2

1. Carsten さんと Org

1-a. アイディアノートとタスクリストを一緒に操作したい

Org mode をつくったのは、アムステルダム大学の教員として研究をつづけている Carsten Dominik さんで、公開は2003年。Carsten さんは物理学、とくに宇宙での物理現象を対象とした研究を進めてきた人です。

Org のマニュアル「The Org Manual」をよむ限り、発表から20年近くたった今も Carsten さんは Org 開発やメンテナンスに関わっているようです。[1]

ここでは、Carsten さんがどのような機能の実装を目指して Org をつくったのか、本人のお話しを元にまとめてみます。

まずは、以下の動画から。

Emacs Org-mode

2008年に Google Tech Talk として行なわれた講演のようで、サブタイトルに「A system for note taking and project planning using plain text files (プレーンテキストをつかった、ノートをとったり、プロジェクトを計画したりするためのシステム)」とあります。

このサブタイトルから、ノートをとりながらタスク管理もできる道具を目指していたことが、よみとれます。

ここがポイントのひとつ。

Carsten さんは2000年代初めの段階で、タスク管理を単独のツール上ではなく、ノートの中で行なうことが大切と考え、その機能を実装した道具として Org を世に出したのです。

もう少しくわしく、Carsten さんの話しを聞いてみましょう。たとえば、動画の5分あたりから出てくる、Org 誕生までの経緯をまとめたスライドのリストは、こんな感じです。

  • Planning tools (GTD and other) start with TASKS. Why?

  • For me, projects start with brainstorming, note taking, organizing notes

  • Tasks naturally apear and result from this flow. When tasks are done, this must be filtered back into the notes

ぼくなりにエイヤと日本語にすると、こんな風になります。

  • GTDやほかのタスク管理ツールは、タスクリストづくりからはじまる形につくられているけど、理由がよく分らない

  • 私の場合、新しいプロジェクトはブレイン・ストーミングや、ノートをとっている最中、あるいはノートを按配している最中にはじまる

  • タスクリストはこの流れから自然に生まれる。さらに、そのタスク群を終えることで、新しく見えてきたことをノートにかくという流れに戻ることができる

これらを踏まえた、Org 開発の目的を次のように整理しています。

  • Initial goals of Org-mode development:
    • Make note taking the fundamental action, tie tasks into the notes.
    • Avoid speparate tools for notes and planning

日本語にすると..

  • Org-mode 開発最初の目的:
    • ノートをとることを基本機能とし、タスクリストとノートの内容を結びつける
    • ノートをとるツールとタスク管理ツールが、別のツールに分かれてしまうのを避ける

Carsten さんは、宇宙物理学のプロとして、自分たちのアイディアで研究プロジェクトを立ち上げ、それを実行しながらさらに新しいテーマを見つけたり掘り下げたりするような、充実した研究生活を送っているのだと思います。

そうした忙しい日々の中で、ノートをとりながら、同じ場所でタスクリストも自由に変化させることができる、しかも、ほかのメンバーとの約束をうっかり忘れないようにしながら、アイディアやタスクリストを按配するツールとして、Org をつくったのだと、ぼくは予想しています。

こうした、ノートをとる道具とタスク管理の道具をひとつにまとめるというアイディアは、Org 誕生から20年経った今でも、主流ではありません。残念ながら..。

ノートツールとタスク管理ツールをひとつにすることで、考える作業を補助する機能や文章をかく機能、そしてタスク管理の機能のいずれもがうまく機能する、というアイディアは、広くは受入れられていないと、ぼくは理解しています。

その一方で、多くの人が自然な形で、ノートをとりながらタスク管理することの大切さに気づいているようにも、思っています。ぼくのような、ナマケモノおっさんでも、10年前に Opal というアウトライナーを使いはじめてすぐ、そう思っちゃったことを覚えています。

アイディアやほかの記録をかきこんだ自分のノートの中で自分のタスクリストを操作する。それが、日々の生活を愉しく過ごすためにも、仲間たちとの約束を大切にするためにも、役立つはず。

ぼくが知っている範囲では、日本で早くからこのアイディアに焦点をあて、その大切さについて文章をかいていたのは、Tak.さんのブログの記事だったと記憶しています。4年前の2018年に出版された『アウトライナープロセッシングLIFE』も、このテーマそのものか、近い問題をあつかった本だと理解しています。

そして、Tak.さんの記事や本とほぼ重なるタイミングで、(たぶんTak.さんの文章にインスパイアされた部分もあったと予想しているのですが) 倉下忠憲さんが、自分なりに解釈しながら、このアイディアの意味について、記事や本にかいています。

最近出版されたこの2人の共著『re:vision』のテーマのひとつは、まさに自分のノートの中でタスク管理する意義ではないかと、ぼくは考えています。

Org という道具は、アウトライナー Opal をつかいはじめた頃のぼくや (Opal をしったのも Tak.さんのブログでした)、ぼくよりずっとしっかり考えていたTak.さん、倉下さんたちとおそらくとても似た想いから、2003年、この地球上に生まれていたのです。

このことを知ったとき、ぼくはちょっと感動してしまいました。

 

  1. The Org Manual. Appendix B History and Acknowledgments.