gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


専門の言葉をとおして科学を学ぶ 2

4. 似た目的で書かれた論文から読み始める

Anthoropocene という言葉がどのように提案され、どのようにして人々に受け入れられたのかを知るため、まずは Google Scholar で、anthropocene というキーワードでヒットした論文や本のリストを眺めてみます。

この検索結果を見ると、文献ごとに6行前後の情報が示されています。1行目が論文や本のタイトル、2行目には書いた人の名前とその論文などが掲載された雑誌や論文集のタイトル、発行年と出版社。3-5行目が摘要 Abstract と呼ばれる、その論文のエッセンスをまとめた文章が表示されます。項目の1番下の行、左端にある「Cited by ..」は、その論文が、他の論文に引用された回数です。

たとえば、1番上に表示された『The 'anthropocene'』という論文の引用回数を見ると、2,000編近い論文に引用されていることが分かります。以下につづく、他の文献の引用回数とくらべてもダントツで多いことが分かります。おそらくこの論文は、Anthropocene について論文や本を書いた人たちの多くが、まず目をとおす大切な文献のようです。

この論文から読んで見るのもおもしろそうですが、もう少し、今の自分の目的にあった論文や本がないか、リストを眺めます。今、ぼくがやりたいことは、Anthropocene という新しい言葉の歴史でした。そんなタイトルの論文があれば、しめたものです。リストの上から5番目までのタイトルは、以下のとおり。

  1. The ‘anthropocene’
  2. The onset of the Anthropocene (Anthropocene の到来)
  3. The Anthropocene: are humans now overwhelming the great forces of nature (Anthropocene ー人類は今、圧倒的な力を手に入れたのではないかー)
  4. The Anthropocene: conceptual and historical perspectives (Anthropocene ーその基本的な考え方と歴史ー)
  5. Are we now living in the Anthropocene ? (私たちは今 Anthropocene という時代を生きているのか)

1番目や2番目の論文もよさそうですが、4番目の『..基本的な考え方と歴史..』が、タイトルとしてはぴったり。なので、この論文の情報を、もう少しくわしく見ましょう。

(余談ですが、2番目の論文が掲載された雑誌の名前は『Anthropocene』です。Anthropocene というそのものズバリの名前がついた雑誌が出るほどに、社会的に認められた言葉になっていることも分かります)

 

5. 雑誌の歴史をのぞく

4番目の項目1行目にある、論文タイトルをクリックすると、その論文のページへ移動します。雑誌の名前は『Philosophical Transactions of the Royal Society A』。長くてちょっと難しそうな名前ですね。

Philosophical は、日本語にすると「哲学の」といった意味だと思いますが、英語の Philosophical は広い意味で使われることが多く、自然科学も含まれます。自然科学も哲学から生まれた分野であり、その一部と考えて良いからだと、ぼくは理解しています。Transaction は、「紀要」と訳すのがよいでしょうか。学術雑誌の別名だと思います。

直訳すると「王立協会哲学紀要シリーズ A」でしょうか。ぼくの経験では、こういった仰々しい名前の雑誌は、その歴史も長い場合が多いのですが、そこに載っている論文まで仰々しくて読みづらいことはほとんどありません。もちろん、内容が難しいことはありますが、文章自体がもってまわったかっこつけたものではなく、多くの人にわかりやすい英語で書かれたものが多いと、感じています。

同じタイトルの雑誌でシリーズ B もあります。こちらは、生物学をやっているぼくには馴染み深い雑誌です。このシリーズ A は、副題を見ると主に数学や物理、工学系の研究を対象にした雑誌であることが分かります。シリーズ A の論文を本格的に読むのは初めてなので、寄り道して「About us」の項目にある「About the journal」のページをのぞいてみます。

最初にある「1. Aims and Scopes ねらいと対象範囲」を読むと、物理や数学、工学分野をひっぱっているリーダーをゲストエディターとし、最先端の研究全体を俯瞰した論文、課題や提言ををまとめたオピニオン論文などが掲載されているようです。「これらは、創造的かつ系統的な総合学説、旧来の分野を新しく結びつける学説を目指した論文で、将来の研究や政策決定の基礎にもなる..」といったことも書かれています。うーん、すごい。

「4. History of the journal 本誌の歴史」を眺めると、もっとおもしろいことが書いてありました。王立協会は1660年、当時誕生して間もない経験哲学という分野を広めるために設立。そして、この雑誌は1665年 (!) 3月に創刊されています。なんと350年以上つづいてきた雑誌のようです。

あのアイザック・ニュートンのデビュー論文 (1772年) もこの雑誌に掲載され、科学者としての人生を歩み始めたとのこと。ニュートン以外にも、チャールズ・ダーウィンやマイケル・ファラデーなどの論文発表の場でもあったようです。予想以上にすごいですが、まぁとにかく、この雑誌に掲載された論文は、それなりに厳しい査読 (内容の信頼性をジャッジする作業) をパスしたものと考えてよさそうです (もちろん、だからと言ってすべて鵜呑みにしていい、という訳ではありませんね)。

寄り道しましたが、この論文を読み始めましょう。タイトルの部分をクリックすると、この雑誌のこの論文のページにジャンプします。幸いにも、この論文は全文無料で公開されていました。

ぼくは、いつも iPad を使って pdf で読みます。この論文のページだとタイトルと著者名の下の行、真ん中あたりにある「PDF」という文字をクリックしてダウンロードします。そしていつものように、PDF Expert というアプリケーションでその pdf を開きました。

(つづく)