on outline processing, writing, and human activities for nature
短かい物がたりをかきました。これだけで完結です。
ホテル・セルワと二羽のペリカン
ぼくは、角をまがるなり走りはじめた。坂をくだりきったところにあるホテルのロビーをめざして。
私は、緩やかな階段の下から聞こえてくるロビーのにぎわいが嫌いなわけではないけれど、少しくたびれたせいもあって、できればカウンター前に行列ができてないといいなと思った。
ぼくの横をカンパニョーロのペダルをつけたロードレーサーにまたがった、レース歴30年以上にみえるバイカー姿の女性が追い抜いていく。風がみえた気がした。
私のうしろにいた10才くらいの少女が私の横をとおって、小走りに階段をおりていく。左手にはペーパーバックの「コンタクト」。カール・セーガンをよむ少女ってわけか、なるほどね。
ぼくを追いぬいた自転車は減速せずに身体を傾け、坂をくだりきった角で左へコーナリングし視界から消える。舗装していない道の土煙だけが残る。
ロビーにおりた私は、レストランへ向かう少女から60度ほど右方向にあるロビーのカウチに向かう。カウンターに行列はないし、その向こうにあるカウチにでも座って風景でもみよう。だって外はすっかり温帯地方の春のような陽気なのだから。
坂をくだり終えたぼくは、息をきらしながら、空をとぶ2羽のホシバシペリカンのマークのついたゲートの奥にある、ガラス張りのホテルの中をみる。
私はやわらかいカウチに腰をおろし、でも背筋をまっすぐにして足をそろえ、窓の外をみる。
窓の向こうは千年前につくられた人工の湖。直径3マイルはゆうにあるだろう。そして向こう岸は一面のジャングル。
よくみると、対岸ではアジアゾウが5頭ジャングルの外に出て水を飲んでいる。2頭は大きくて3頭は小さい。とくに小さな1頭は大きな1頭のお腹の下をいったりきたりしている。親子かなぁ。
その小さな象が大きな象の下を4回くぐりぬけたとき、右うしろにあるホテルの入口から、私の名前をよぶ声が聞こえた。
ぼくは思わず、ロビーのカウチに姿勢よく座って窓の外の遠くをみている彼女の名前をよんでしまった。
私はふりかえる。
彼女の顔がみえた。ぼくは手をふる。
彼女のうしろに広がる大きなガラス窓のむこうをホシバシペリカンがゆっくり右から左へとぶ。
3年前にオーストラリアの西端へ旅だっていった姉とのスリランカでの再会は、こんな風だった。
彼女はそこで野生生物保護区のレンジャーをしている。