gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


百年の孤独

 

『百年の孤独』(堤直訳、新潮社) をよみ終りました。ぼくにとってガルシア=マルケスの本は『長老の秋』につづく二冊目です。以下は、少しネタバレを含む感想です。

物がたり全体のアウトラインは、『長老..』にくらべるとシンプルに感じましたが、皆さんはいかがでしょうか。

『長老..』では時間が進んだ先でまた最初に近い (でも少し進んでる) 時間に戻り、また進んだ先でまたまた前章の始まり近くの時間へ戻り、加えてそれぞれの章では前章と少しちがう風景が描かれるという構成だと理解しています。

一方『百年..』では、同じ名前の登場人物がたくさん登場しますが、物がたり全体のアウトラインは(要所ごとにふり返りはありますが)ひとつの大きな時間軸に沿って物がたりが進むように読めました。『百年..』には始まりと終りがあります。

そういう意味で『百年..』は閉じた終わり方をしている作品だと思いました。小さくない寂しさ、郷愁のような感覚、その向こうにある光の世界などのイメージが残りました。

『百年..』では、この大きなひとつの時間の流れのなかで、おもに6-7世代にわたり25人前後の生涯が描かれていると理解しています。これらの人々のマコンドという街での、個性的な人生の重なりから生まれる大きな風景の歴史が、この物がたりの中心になる魅力だと感じています。

たとえば、16世紀後半、英国の海賊であり海軍軍人でもあるフランシス・ドレイクがコロンビア北西部海岸にあるリオアチャを砲撃したときのできごとが、300年以上経ったマコンドので起こる出来事に繋がる。あぁ、あの出来事がこうやって捩れてここに結びつくのか。そういう複数の物がたりの繋がりが独特のリズムで印象的に描かれています。

最初の章は、マコンドの街をつくったホセ・アルカディオ・ブエンディアの息子、アウレリャノ大佐が銃殺隊の前に立ったとき、遥か遠いむかしの子どもの頃に初めて氷をみたことを思い出すにちがいない、という語り手のことばから始まります。

このひとつのセンテンスにも、これから描かれるアウレリャノ大佐の人柄と彼の長い人生のエッセンスが詰まっているだけでなく、物がたり全体にも繋がる情報がうまく盛り込まれていると思っています。たくさんの登場人物のなかでも、アウレリャノ大佐が大切な役割を担っているのかなと予想しています。

個人的に好きなのは第一世のウルスラ・イグアランの強さです。それぞれ個性的で自由に生きる子どもたち、彼や彼女たちの妻や夫たちを、それに負けない個性的なやり方で束ねている印象を持ちました。

年をとり庭にある栗の木にしばられながらも逞しく生きる夫、ホセ・アルカディオ・ブエンディアのもとを訪れる彼女の話しも好きなシーンのひとつです。今思い出しても、ほんの少し胸の奥がじんとします。

それ以外では、やはりアウレリャノ大佐の生き方と個性に強く魅かれますし、マコンドの街ができたばかりの頃にやってきたメルキアデスにも憧れます。学者として描かれているように感じるメルキアデスが、死後も幽霊として登場し、中心になるブエンディアの人々の最期にも関係しているようによめます。彼の部屋と著書はブエンディアマコンドの街の歴史の終りにも関係しています。こうした死を越えた「人」の存在を描いたところも、この『百年..』の魅力のひとつではないでしょうか。

そして、たとえば何かあるとすぐ土を食べてしまうレベーカに、愛する人ほど冷たくしてしまうアマランタ、たくさんの男を不幸な死に追いやったレメディオスに、とおい田舎町でなぜかお姫さまとして育てられブエンディア家の命運に強く関わるフェルナンダ、智をこよなく愛するアウレリャノ・バビロニアなど、心を揺さぶった存在として、何人もの名前を挙げたくなるのはぼくだけではないと思います。

何度かかきましたが、マコンドの街とそれをとりまく南米の山岳地帯に拡がる大きくて深い森や、そこにくらす熱帯の動物たちのことを想像しながら読みました。

マコンドには、身体が大きくてあの独特の赤を纏ったコンゴウインコの声が、クモザルやオマキザルたちの声に混ざり、遠くから聞こえてくることもあったでしょう。

南米へ行ったことがないので勘ちがいがたくさん入っていると思いますが、16世紀にスペインが侵略する前の人々の文化や宗教と、スペイン人たちがもってきたカソリックなどが混在し、マコンドの街がつくられた山岳には、スペイン人以外の人々も暮らしていたのではないでしょうか。

地図をみると、マコンドのある山を下った先には、大きな三角州とその周囲に広大な湿原が拡がっているようにみえます。そしてその先はカリブ海。北の対岸にはキューバやジャマイカなどの大きな島々があります。カリブ海は、たとえばたしか、アウレリャノ大佐が追ってから逃げながらも活動していた場として、この物がたりにも時折登場します。

予想していましたが、やはりかきはじめると止まらなくなってきました (笑)。今日はこのくらいにしておきます。

少し時間を置いて、もういちどよみたいと思っています。そのときには、できればこの作品に大きな影響を受けた世界の人々の物がたりも調べながらよむのが愉しそうかなと考えています。