on outline processing, writing, and human activities for nature
花巻で調査をしていた夕方、
巣にもどるサシバとノスリを車の中で待っていたとき、
丘の下から、こちらへ歩いてくるニホンカモシカに気づいた。
田んぼのあぜ道をゆっくりと、馬のように首を少し下げて、
その首を上下に少し振りながら
のっそり歩いてくる。
ヒグラシが鳴く。
やがてカモシカは、丘を登りきり、
あぜ道の終わりにあるぼくの車がとめてある
アスファルトの道路手前で、立ち止まる。
1秒か2秒。
そしてまた、それまでと同じように
のっそりと道路を横切り、
道路の反対側、少しきつい斜面をよいしょと登る。
立ち止まり、ちらと振り向き
森の中に消える。
5時間前の昼、そのカモシカは
とおくに見える北の山で草を食んでいたかもしれないし、
1時間前には、この丘のすぐ北を流れる
大きな川をのっそり渡ったのかもしれない。
それは、育ったなわばりを出て新しい住処をさがす
若いカモシカだったのかもしれないし、
長いあいだサシバと一緒にこの丘でくらしてきた
カモシカだったのかもしれない。
とにかく、カモシカの歩いた線と
ぼくの動いた線が、たまたま交差したのだ。