gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


ホタルと2CV

幸福とは、人生の味そのものなのだ。イチゴにはイチゴの味があるように、人生には幸せの甘さ(うまさ)がある。[1]

うちのそばを流れる川でゲンジボタルが飛びはじめました。近所の2才か3才の子も、すっかりホタルにハマってしまい毎晩見に行ってるようですが、めんどくさがりのぼくも、少しだけその気持ちが分かります(笑)。

ゆっくりと初夏の涼しい夜の空気の中を漂う、心にしみるゲンジボタルの緑の光を見ると、こうした生きものたちと一緒に暮らしている幸福感を思い出すことができます。

そして、あれは三日前の夜。ホタルを楽しみながら川面を眺めていると、うしろから心に響く車のエンジン音が近づいてきます。丸くて滑らかな、でも今のエンジンの抑えた静かさとは違う、はっきりとエンジンですよと教えてくれる音。

しっかりアクセルを踏み、めりはりのある走り方をするのは、旧い車を運転する人の特徴。「空冷エンジンで、でもこの丸い感じの音はたぶん..」と期待しながら川面から道に目を上げると、シトローエン2CVというフランスの旧車でした。

暗がりでしたが、フレンチ・ブルーのたぶん70年代前半に生産されたタイプの2CV。2CVを、フランスの旧車が好きな人たちは「トゥシフォー」とフランス語的なアクセントで呼びます。

どちらかと言うと旧車の多いぼくの住む町でも、ここ10年ですっかり少なくなってしまった車ですが、まだ近所にも2CVのオーナーがいるみたいです。

ゲンジボタルのしずかに煌めく小さな光を楽しめただけでなく、たとえば戦後40年以上にわたってパリの街をにぎやかに走っていたフラット・ツインと呼ばれる小さなエンジン音を聞くこともできた。

幸せな気持ちは、たし算ではなく、かけ算になるんだと実感できた瞬間でした。

生きものと旧い車が好き(ただし、イギリスとイタリアとフランスの旧い車限定.. 笑)。ただそれだけで、こういう幸福感を愉しめるというのは、何ともよくできた人生のしくみです。

 

  1. アラン『あるノルマンディー人のプロポ』(神谷幹夫 訳)