gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


ペン日記: Lamy 2000

このペンが生まれたのは1966年。Lamy が世に送り出した最初の万年筆。このペンのことでまず最初に書きたいのは、その斬新なようで古典的でもあるデザインについて。

キャップを外して軸全体を眺めると、几帳面なほどひとつの曲線にまとめられた輪郭が気になる。セクション (ペンをもつ部分) がニブ (ペン先) に変わる部分の 1mm に満たない段差が、程よいアクセントになり曲線全体のまとまりを強調しているようにも感じる。

このまとまりある曲線からやさしさを感じるのは、ぼくだけだろうか。葉巻型の輪郭の一番太い部分が、軸全体の中央の位置ではなく、少しうしろ寄りにある。つまり、ちょっと下ぶくれ。完璧な図形である円から、ほんの少し外れた曲線。このずれから伝わってくる不完全さが、Lamy 2000 の曲線に命を与えている。キャップを被せると、やさしい印象はさらに強まる。

軸のニブ側の曲線を強調したデザインは Lamy 2000 よりも前に、いくつもの名作が誕生している。たとえば、傑作と呼ばれる Parker 51 (1941-72年)。あるいは、万年筆史上もっとも複雑な構造をもつという Sheaffer Snorkel (1952-59年) の一部のモデル、たとえば Sentinel や Statesman でもセクションからニブへの曲線が大切にされていると思う。

それぞれが別のアプローチで、流線型と呼びたくなるような輪郭をつくろうとしていることがおもしろい。

Lamy 2000 は、こうした数多ある名作の中から生き残った数少ない現役製品であるだけでなく、未だに新しくペンを好きになる人々に広く受け入れられ、Lamy 社のフラッグシップとして50年以上にわたって生産がつづけられているといういくつかの記事を読んだとき、ぼくはちょっと感動してしまった。

このペンの表面には、輪郭に沿って縦に細かい線が刻まれており、やわらかい木でできたペンのような雰囲気をつくりだしている。

この有機的な素材感に、硬質で直線的なクリップ (キャップについたポケットの淵を挟む部分) が加わり、やさしさだけでなく意志の強さも備えたペンができあがる。

万年筆に興味のない人には、良い意味で万年筆らしくないペンに見え、万年筆が好きな人には、万年筆の中の万年筆と誇らしくなるようなデザイン。

デザインと表裏一体の機能についても、少しだけ。

軸の後端は、インクを補給するピストンのブラインドキャップ。右へ回せばピストンが下がり、左へ回せばピストンが上がり、インクを吸い上げる。

ニブは、hooded nib (フードを被ったニブ) と呼ばれるセクションによってニブの一部が覆われた型。外に出たニブが小さいにも関わらず、書いているときにはしなりを感じるやわらかい14Kのニブ。

2000 のニブは、たぶんスィートスポットが狭い。スィートスポットとは、ニブからインクが心地よく紙へと流れる角度のこと。これはたぶん、2000 のニブが hooded nib の良さを生かす形状に設計された結果かなと予想している。この特徴を踏まえた書き方さえしていれば、かすれたりせずウェットな (適度にインク流量の豊かな) 書き心地を楽しめる。

Hooded nib なので掃除が手間じゃないかと考えていたけど、それは杞憂だった。かんたんにニブとフィード (ニブをインクに送り届ける部分) を軸やセクションから外すことができる。ニブの外し方は、たとえば Anderson Pens の動画が分かりやすい。

インクタンク容量を、個人の研究用に買ったお古のサンプル管で測ったら 1.3ml。Safari 用コンバーター容量の 0.7ml の倍近くあるのだから、たくさん書くペンとして使うときでも、困らない大きさ。

セクションの少し上にある控えめなインクウィンドウは、かっこいいだけでなく使いやすい。つまり、インク残量が分かりやすい。

ニブを下にして軸を垂直に立てたときにウィンドウが白く見えたらインクの補充どき。軸を水平にして、インク色になった窓の割合を見れば、インクを使った割合も読みとれる。

個人的には、ポスト (キャップの軸の後端に被せること) せず、葉巻型の形を楽しみながら書くのが好み。

10か月使ってきた印象では、大きすぎず (キャップを被せて 139mm)、重すぎず (キャップを被せて 25g、軸だけで 15g)、かなりラフな扱いをしても不具合が生じにくいタフなペンだと思う。

クリップの力がやや弱く感じることもあるが、ジーンズのポケットに入れて持ち歩き、メモしたりノートをとったりするペンとして安心して使うことのできるペン。

写真は、左から Opus 88 Koloro Demo、Lamy 2000、そして Edison Pen Menlo (Draw filler)。