gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


目標の文章断片

一生かけてでも、こんなものをつくり上げて雑誌に発表してみたいと、目標にしている論文がある。でも、ぼくはその論文を、まだ読んでいない。

それは、20代後半に病気のためこの世を去った友人のMが話していた、気象学の論文。学部生の頃に聞いた話しだから、ぼくたち自身も、まだ本格的に論文を読み始める前の話し。

ぼくの勘違いや記憶違いも入っている可能性は高いのだけれど、今も目標の文章断片であることに、変わりはない。

Mによると、それはわずか1ページほどの本文に図がひとつだけの論文。研究に使った道具は、自転車と地図とえんぴつに著者の体力、そして、好奇心とアイディア。

冬の一番寒いある期間、その著者は、早起きして自分が暮らす街の路をくまなく走る。

(たぶん白い息をはきながら)

そして、電柱などの丸いやや太めの構造物についた霜が、どの方位に向かっているかを記録する。

その作業を繰り返すことで、風が都市の中をどのように流れているのか、どこに集まり、そこからどこへ流れるのか。どこで弱まり、どこで強くなるのか。街なかの気候を、見事に描いたのだそうだ。

で、(勘違いかもしれないけれど) それまで誰も顧みなかった「都市の微気候」という現象が興味深いものであること、それが場合によっては無視できない大きな現象に繋がる可能性ももっている事実を示した。

新しい分野をつくるほどの論文だったのかもしれない。

短くて、かんたん。でも、新しいアイディアの入った生産性の高い (たくさんの新しい問いを生み出す) 文章断片。その文章をつくるための観察や実験 (データ集め) も、そのやり方に気づきさえすれば、誰にでもできる。

論文に限らず、どんな種類の作品でも、そういった文章断片を書こうという気持ちを忘れない。

サウイフモノニ、ワタシハナリタイ。