on outline processing, writing, and human activities for nature
前にも書いたけど、岩手の花巻を訪れる愉しみのひとつは、夜空を眺めること。星空が愉しめそうな天気のいい夜は、夕食のあと車に乗り、いつもの場所へ向かう。
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たとえば、11月中ばの午後8時。見渡す限り広がる田んぼの中に森が島のように浮かぶ、その丘のてっぺんの農道に車を止めてエンジンを切る。
ドアを開け車を降りると、もうそこは星と月の世界。
西の空高くにある上弦の月は、予想の何倍も明るく輝き、西の星はあまり見えない。もちろん、月からやや地平線側ある火星は、月明かりで濃い灰色になった夜空の中、赤く輝いている。
翻って東を見るとオリオンが、黒々と横たわる山々から半身をもたげ、乳白色に見える天の川の中でもうすぐ自分の季節になるよと主張し始めている。
北の森の影の上には、カシオペア。こちらも星が多く、カシオペアもWの字の5つだけではない。その形を見定めようとしているうちに、ひとつ、点滅しながらゆっくり移動する大きな灯りが視界に入る。
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旅客機。点滅する灯りはカシオペアの下をゆっくり横切り、北極星の下をとおり過ぎたあたりで、先に飛行機の灯りが見えた北東の地平線のあたりから、ごぉぉぉという飛行機の音が聞こえ始める。
その音の聞こえてくる方向から、飛行機本体の灯りへと体の向きを変えると、飛行機の灯りはもう、天頂近くはくちょう座の中を飛んでいる。
西へと向かう灯りは、眺めているうちにデネブを過ぎ、さらに西へ。
もう一度、音の聞こえる方角へ体を向けると、それはカシオペアを超え、北極星の下に向かっている。
星空の下の、灯りと音のギャップを楽しんでいるうちに、先に進む灯りの飛行機は火星の下をゆっくりと西へ向かい、やがて地平線あたりで見えなくなる。
音の飛行機は、ようやく天空のデネブを過ぎ火星へ向かう途中。たぶん2分くらいかけて火星に、それから余韻を残すように西の地平線へ。
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夜の空では、星の座標が、灯りの飛行機と音の飛行機のギャップを美しく演出し、空の大きさを定量的に実感させてくれる。
そして、そんなことなど関係ないよとフクロウは鳴き、上弦の月は白く田んぼと森を照らす。
火星は相変わらず赤く光る。