gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


Noodler's Ahab

 2月上旬、Noodler’s Ink という米国のインクメーカーがつくっている Ahab (エぃはぶ) という万年筆が届きました。12月上旬に Angers (フランス語のアンジェ?) という店で注文したので、だいたい2か月かかったことになります。値段は 4,860円。

 Flex nib (しなやかなペン先と訳せば良いでしょうか) で、細い線も太い線も自由に描くことのできるのが特徴。似た機能をもつペン先に stub (スたぶ) nib という先端が平らになったペン先もあります。どちらも、ゆっくりていねいに文字をかきたいときに使う万年筆だと思います。

 Ahab は、flex nib 万年筆の中でも初心者向けにデザインされたものだと思います。たとえば Goulet Pen という米国ベースのリテイル (販売店) 価格は23ドル (2,500円弱)。Noodler’s以外のメーカーがつくる比較的安い柔らかいペン先の万年筆として、たとえばパイロット・ファルコンが152ドル (17,000円弱)、プラチナ3776が176ドル (19,000円弱) ですから、Ahab はその6分の1以下の価格で flex nib 万年筆を手にすることができることになります。

 多くの flex nib 万年筆が高価な理由は、しなやかなペン先の素材として、金など高価な金属を含む合金が適しているからだと、ぼくは理解しています。Flex nib 万年筆は古ければ古いほど書き味がすばらしい、と言われるのも同じ理由だと思います。金の価格が高騰する前の時代、メーカーは材料コストを今ほど気にせずに gold nib をつくることができたでしょうから。

 そうした伝統?の中で、Noodler’s は steel (鋼鉄) 製の flex nib を商品化しました。Ahab のペン先を見ると、スリットと呼ばれるペン先を縦に2つに分ける切れ目が、他のペン先よりもずっと長く、ペンの軸に入る部分までつづいています。この長いスリットが、gold nib よりもかたい steel nib であっても、しなやかな書き味をつくり出す鍵のようです。

 Flex nib ではない通常の steel nib の販売価格は、先ほどの Goulet Pen で15ドルから20ドル。それに対し、gold nib (18k) は150ドルと7倍から10倍の値段ですから、steel nib の Ahab が安くできるのは、分かりやすい理屈です。

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 この Ahab をどうやって入手するのか、少し試行錯誤しました。

 まず、万年筆をたくさん置いてある大手文房具屋を2−3軒まわり、Noodler’s Ahab という万年筆を注文したいのだけれど.. と尋ねたのですが、そんな万年筆知らないし、取り寄せられないという反応でした (少しがっかり)。

 次に Amazon.co.jp。しっかりと調べなかったのですが、見つけた Ahab の値段はなんと 15,000円。これでは、安価という Ahab の良さが帳消しです (かなりがっかり)。

 最後に米国のリテイル。23ドル + 送料 15ドル = 38ドル (4,000円) でした。経験的には、注文から2週間弱で届きます。たぶんこれが安く確実で、早めに入手できる方法だと思います (よしよし)。

 でも少し考えて、自分が使いやすい国内の店で注文することにしました。ちょっと寄り道になりますが、ほぼ通勤経路にある駅ナカの文房具店 Angers です。

 米国のリテイルから買わなかった理由は、日本の販売店の棚にも Ahab のような安価な flex nib 万年筆が並ぶといいなと思ったからです。何となく万年筆に興味をもつ人が flex nib を使うきっかけになれば、という期待も入ってます (にやり)。

 Angers にしたのは、Noodler’s のインクがたくさん置いてあったから。お店の方たちの反応は、Noodler's が万年筆をつくっていることを知らないという反応でしたが、それは想定範囲内。

 そこからひとがんばりして、自分の少ない知識を総動員して Ahab や他の Noodler's 万年筆のことを説明し、お店の PC で Noodler’s のサイトを見ながら、この万年筆が欲しいともう一度お願いしたところ、問い合わせてくださることになりました (ありがとうございました)。

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 届いた Ahab を受けとるとき、ふとカウンターの奥に目をやると、ぼくが注文したのとは別の色の Ahab 2本と Noodler’s の特徴的なインク瓶が2つ一緒に置いてあり「検査済み」と大きく書いてありました。

 ぼくが注文した色の Ahab も2本あり、好きな方を選んでよいとのこと。ちょっとえらそうに、ぼくがキャップを開けて nib をみていると、他の色の Ahab も並べながら「ほかの色もいいですね。このクリップの形は魚をデザインしたもので..」と語ってくれました。届いた4本の Ahab をお店の人たちで使ったり、調べたりしたのかもしれません。

 ほかの3本もここで売るのですかと聞くと、もちろんそうだとのこと。ぼくの注文が Ahab を置くきっかけのひとつになったと思うと、少しうれしくなりました。

 そのいきおいにのり、帰りの電車で Amazon.co.jp で Ahab の価格を調べるとだいたい6,000円くらいに下がっていました。まだ少し高価ですが、2か月前にくらべると、ここでも Ahab が安く入手できるようになったワケです。

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 さて、肝心の書き心地ですが、Ahab というか、flex nib でかく楽しさにすっかりハマっちゃっています。インクを入れて、最初に文字を書いたときから、ハマっちゃってます。

 ただし、いくつかの英語サイトが、Noodler's の安価な万年筆の品質にばらつきがあることを指摘している点もお伝えしておかなければいけません。そして、それでもやっぱり Ahab はいいよーって言う万年筆好きの人が少なくないことも。

 ぼくも、そもそもはペン先を外して自分で調整がしたくて、壊れてもあまり懐と心が痛まない万年筆として、この Ahab を選びました。Noodler’s では、ちゃんと交換用のペン先やフィード (ペン先にインクを供給する部分) も別売りしています。

 (個人的な経験ですが、自分でペン先を交換したいと言うと、日本の販売店ではあまりいい顔されません)

 でもまずは、工場出荷されたままの Ahab を使って、ゆっくり文字を書くことを楽しんでいます。ポンプ式でたくさんのインク を手軽にたくわえられるのも魅力のひとつです (2ml。通常のコンバータ 0.7ml の3倍弱の容量) 。

 壊れることなど気にせず、ジーンズやザックのポケットに挿しておいて、ちょっと時間ができたときに書く、という使い方をしています。