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ecology of biodiversity conservation

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The need for evidence-based conservation. November 21 2014.

Title : The need for evidence-based conservation

Authors : Sutherland WJ, Pullin AS, Dolman PM, Knight TM

Journal : Trends in Ecology and Evolution 19, 305–308 (2004)

Comments : 保全研究とその実践現場のギャップを埋める必要性を説いたオピニオン論文。自然保護区で進められている保全対策のほとんどが、個人の経験だけに基づいて行われている証拠を示した上で、1. 保全対策の意思決定は、科学的データ evidence を広く体系的にレビューした上で行う必要があること、2. その対策の成果もデータとして蓄積し、公開する必要があることを強く主張している。ここで言う科学的データとは、コントロールのある実験結果やランダムサンプリングされた観察データから日々の観察事例の記録までの、さまざまな質のデータを指す。

そのシステム実現のために、医療現場のシステムをモデルとすべきだと強調している点も興味深い。この分野では、保全現場よりも数10年早く、科学的データに基づいて診断し治療を行うという改革が進んでいた。

Overview

1. Introduction

医療現場では、この数10年のあいだに大きな変化が起こっている。まず、個人の経験に基づいた治療が原因で、たくさんの医療ミスが生じていた可能性が明らかになった (Stevens and Milne 1997)。たとえば、血栓溶解法 thrombolytic therapy と呼ばれる治療法が、心筋梗塞に効くことが広く知られるようになったのは1986年である。しかし、この治療法の有効性を示した研究成果は、その10年以上前の1975年に発表されていた (Antman et al. 1992)。もし、この治療法が迅速に普及していたならば、何1000もの命を救うことができたはずだ。このようなショッキングな報告が契機となり、医療現場にメスが入り、根本的な変化が必要だという結論に繋がった。その結果「科学的データ evidence にもとづく実践」を支援する仕組みが発展したのだ。医療現場は大きく変化し、現在は、科学的データを広くレビューする方法の習得が、訓練のルーチンにまでなっている。

そして私たちは、保全活動にも、同様の革命が必要だと信じている。

2. 本当にそこに問題があるのか?

イングランド東部の湿地保護区を対象にした調査結果をみると、保全管理のために実施した対策を決定するプロセスで、意思決定のほとんどが、個人の経験や聞き伝えに基づいて行われており、科学的データに基づいたものはわずか 2–3% だった (表)。しかも、それらの保護区で現在進行中の保全対策の内容や成果を記録している例は、ごくわずかしかなかった。したがって、今進めている対策がうまくいったかどうかを基準にして、将来の意思決定を行うこともできない。つまり、保全活動の多くは、神話に基づいて実践されているのだ。

表. イングランド東部の保全対策で意思決定に使われた情報の種類
情報源 例数 %
常識
55
32.4
個人の経験
37
21.8
同じ地域の保護区管理人との話
34
20.0
別の地域の保護区管理人との話
4
2.4
エキスパートの意見
17
10.0
2次資料
19
11.2
論文などの1次資料
4
2.4

なぜ、こんなことを心配しているのか? それは、もし保全対策の効果を評価しないままだと、誤った対策法が流布する可能性もあるからだ。たとえば、草地の冬季湛水はシギチドリ類に良いことだと広く信じられているし、政府もそれを奨励している。しかし、Ausden et al. (2001) は、草地に湛水することで柔らかい土が供給され、シギチドリ類の採食に都合が良い一方で、湛水によって土壌動物が死んでしまうことを明らかにした。土壌動物はシギチドリの食物である。この問題の最適解は、湛水する場所としない場所をモザイク状に配置することだろう。しかし、この最適なモザイク配置を求めるためには、科学的な検証が必要である。

医療技術の科学的データは、保全分野のデータとは大きくちがう。医療分野には、より直接的で遥かに良質の資料がある。解析に使えるサンプルのサイズは大きく、うまくデザインされたランダムサンプリングで集められている。保全分野にも、それに匹敵する研究はある。しかし、その数はとても少なく、逆に、応用課題のオプションはくらべものにならないくらい多い (たとえば、侵略的外来種は何1000種もいる)。

ポイントは、個人の経験が、あるひとつの対策を行った経験に限られている点にある。したがって、それぞれの経験をひとつのデータ点ととらえ、それらを統合することが重要になる。その好例として、フンボルトペンギンの人工繁殖データの応用が挙げられる。Blay and Cote (2001) は、たくさんの動物園の飼育データから、ペアあたりの雛生産数が高くなる条件を解析した。Blay らのメタ解析によって 1) 水を塩素処理をしていない、2) 1種のみで展示されている、3) プールが大きい、そして、4) コンクリートの施設では砂や砂利が巣材として与えれている場合に、雛生産数が多いことが分かった。この研究の意義は、個別例を集めて全体パターンを明らかにしたことだ。

3. 解決策

私たちは、その打開策として、保全現場の情報を集めた集中型データベース (Box) の構築を提案する。このデータベースには、操作実験が組み込まれた保全対策の成果から、単発でコントロールのない対策の成果まで、あるいは、定量的なデータから定性的なものまで、あらゆるレベルのデータが入る。すべての事例をレビューすることで、自分の得た成果がどれくらい一般性をもつのかを評価できる。また、保全問題への対策を講じる際には、体系だったレビューの情報源にもなる。

Box. 現在 (2004年) 作成中の生息地管理のウェブサイトで検索可能な項目
検索項目
1. 国
2. 地名
3. 組織と責任者
4. 生息地の大分類 (メニューから選ぶ)
5. 生息地の詳細 (優占植物種など)
6. 保全問題のタイプ (メニュー)
7. 関係する種
8. 保全対策の大分類 (メニュー)
9. 保全対策の詳細 (対策の繰返しやコントロールの有無を含む)
10. 対策の成果

もし、すべての保全活動を実践する人々が、たとえば毎年2つの活動とその成果を記録したなら、そして、その情報を公開したならば、私たちはあっと言う間に、とても便利なデータベースを手に入れることができる。

また、科学的データにもとづく保全活動は、政策に組入れられる必要もある。たとえば、保護区などの活動を認可する組織に、科学的データに基づく保全管理上の意思決定を促進する明確な指針があれば、NGO によるデータに基いた多くの活動を正当化できる。

4. おわりに

科学的データにもとづく保全活動は、保全そのものに効果的であるだけでなく、資金拡大にも繋がる。資金援助をする人々、法整備を進める人々に対しても、効果を積極的に示すことができるからだ。しかし、その実現のためには、保護区管理に携わる組織や人々の、根本的な変化が必要である。

*: この概要は、個人のノートとしてまとめたものです。できるだけ原著の内容を反映させる努力をしていますが、まちがいが含まれている可能性もあります。興味をもった方は、原著にあたることをお勧めします。また、まちがいに気づいた方は、ぜひお知らせください。



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