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ecology of biodiversity conservation

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ジョン・メイさんのファイリング・システム. August 31 2015

『Still Life』というロンドンを舞台にした映画の話し。

これは、英語のタイトル。監督は Uberto Pasolini。もしあなたがこの映画をまだ観ていないなら、Google して邦題を探すのは、少しまって欲しい。

この英語のタイトルから何通りかの意味が読み取れて、それが、この映画のメッセージにも結びついている。


この映画の中心に描かれているのは、ジョン・メイというおじさんで、人の調査が仕事。しかし刑事でもないし、探偵でもない。物語の最初の5分で、彼がどんな調査をしているのかが、そして彼の仕事にのぞむ姿勢と、その姿勢を支える彼の生活が、最小限の情報で描かれる。

ナレーションもないし、台詞もほとんどない。職場の看板すらでてこない。にも関わらず、最初の5分で、この映画をつくっている人たちがジョンの生活を通して何を伝えたいのか、そのバックグランドが見えてくる。

ジョンが真摯に取り組む仕事の意味こそが、映画の大切なテーマだと思う。この冒頭のアウトラインからすると、監督たちの意図は、ジョンの職業を端的に伝えることではない。そして、自分の頭でその仕事が何かを探りながら物語に入って欲しい、というぼくたちへのメッセージを感じた。

だからこの記事でも、直接それを書かないほうがいいかなと考えている。日本語のタイトルを見るとそれが分かってしまうから、極力知らないまま観るの理想だと思っている (そりゃ無理だとも、思うけれど)。


ここで触れたいのは、ジョンのファイリング・システム。

ジョンの仕事に取り組む姿勢を分かりやすく描く道具として、彼がその仕事のために使っているファイリング・システムが、大切な役割を担っている。机の上には PC も見えるし、そのスイッチを入れるシーンもあったりするが、ジョンのファイリングの中心は、紙のフォルダーである。

おそらく、ひとつの調査であつめた情報は、ひとつのフォルダーに収まっている。答えをみつけるための「しるし」が、必要最小限にしぼりこまれ、ひとつのフォルダーに集められている。そして、その中心になるのが、調査している人たちが自分自身のために撮った、あるいは誰かがたぶんその人のために撮ってくれた写真。

ジョンは、まず机の上でフォルダーを開き、集めたしるしから読み取った情報をもとに、電話したり、人に会いに出かけたりする。

ジョンの仕事のひとつは、集めたしるしをもとに、調査対象になった人たちの生活を、心にとどくメッセージとしてまとめること。そのとき彼は、フォルダーに集めたしるしを、机の上に、一目で見えるように並べ、それを眺め (見つめ) ながら、ていねいに文章を書き始める。

ジョンの調査は、望まぬ形で終わることも多いが、ごく一部は、満足できる形で終わることもある。どちらになったとしても、調査終了と彼が判断したとき、彼はフォルダにはさんだ「State report」(たぶん進捗状況の要点をまとめた一枚の紙) に「Case closed」と斜め書きする。

そしてそのフォルダを、完了ファイルの棚に収める。ハンガー式フォルダーの収まる棚が、たぶん部屋の半分以上を占めていて、これまでに完了した調査が 100 や 200 ではなく、おそらく千以上あることが見て取れる。


で、ここがツボなんだけど、調査のあいだは、フォルダーの表にクリップでとめていたその人一番の写真を、満足できる形で終わったときだけ、彼の暮らす flat に持って帰り、机の上に置いてある一冊のアルバムに貼りつける。

大きくて分厚いアルバムには、不揃いで、ぼろぼろになった写真が、ていねいに並べられている。そのアルバムを、ジョンは、ゆっくりとめくりながら眺める。その数が、10や20ではなく、何百人の写真であることも分かる。

ぼくの限られた経験から想像しても、ジョンが取り組む調査は、おそらく、物理的なものだけでなく、精神的な困難が大きい調査だと思う。しかし彼は、シンプルで優れた、このファイリング・システムで、前に進む。

人を調べる仕事だから、ファイルにも、その人がすぐに思い浮かべられる写真というタグをつける。そして、うまく行ったときには、そのタグを別の場所に集めておいて、自分の成果を、いつでも俯瞰できるようにしておく。

物語が3分の1程度進んだところで、彼の仕事に大きな変化が起こる。これまでになかったような困難。でも、そこで物語は急展開するのではなく、彼は、このシステムをベースに、でも新しい可能性に向けたステップも踏み始める。

そして、エンディング。ちっとも分かりやすく語られていないけれど、この彼のファイリング・システムがあったからこそ表現できる物語の終わりだったと、ぼくは思う。ハッピーエンディングととるか、そうでないととるか。それを、見る人がこの映画の作者が用意したしるしをどれだけ楽しんだかに大きく依存させているのも、この映画の特徴かもしれない。

少し重い問題がテーマであることも、言っておかなければいけない。


ぼくはこの映画を、iTunes store でたまたま見つけ、カミさんと2人で観た。

ファイリング・システムなんかどうでもいいと思う人でも、ロンドンという街がすきだったり (Kennington というテムズ川南岸の一区画が舞台)、British English のすきだったり (いつも思うけど、ロンドンという街にはほんといろんな英語が生きている)、さまざまな国の生活文化に興味があったり、人の社会、とくに都市のかかえる人権問題に興味をもっている人にもオススメの映画かな、と思っている。



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