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ecology of biodiversity conservation

notes

on ornithology, ecology, conservation of biodiversity, natural history, evolution, outliner as a personal dynamic media, and writing


しるしに迷わない方法. July 27 2015

これも先にかいた記事「しるし」のつづきで、階層を上がる [1] についての話し。

アランは、こう言っている。

「しるし」を求めはじめたら、いっさいが「しるし」である [2]。

しるしを意識し始めると、たくさんのことがしるしに見えてしまう。その記録に追われていると、それだけで一日が終わってしまう。あるいは、見つけたしるしの量に圧倒され、立ちすくんでしまう。しるしの海を前にして、自分はいったい何をすればよいのだろう、と。

ぼくは、その対策のひとつとして、「問い」をつくり、その答えの案になるしるしを探し、なぜその答えがもっともらしいと判断できるのか、その説明も自分の見つけたしるしをもとに組み立てる、というプロセスを繰り返すことが有効だと考えている。

ここではそのプロセスを、少しくわしく話したい。


Step 1. しるしを言葉の断片として集める

まずは、蓄え方を工夫する必要がある。しるしには、絵や音やいろんなものがあると思うけれど、ここで話す方法を実践するためには、できるだけ言葉の断片として蓄えるのがいい。それも、操作しやすくするため、できるだけ小さく、でも意味をもつ単位、つまりセンテンスか文節単位で蓄えるのがいい。

Step 2. 問いをつくる

そして、集めたしるしを眺めながら問いをつくる。あるいは、問いになるしるしを選ぶ。

ただし、これも実のところ、かんたんではない。問いを書き出そうとすると、壮大で抽象的なものになってしまうことが多いからだ。油断すると、自分の生活に根ざした問いではない問いをつくってしまうことが、多いからだ。

たとえば「人生とは何か」や「生命とは何か」といった問い。あと、誰か有名な人の受け売りの問い。こういった問いをつくること自体は悪いことでないが、それに答えられるしるしを、最初から自分の中にもっている人は、たぶんそんなに多くない。答えようとしても、自分の集めたしるしが役立たずだったり、直前に読んだ本の答えをそのまま書き写すことになったりする。こういった机上の空問 (きじょうのくうもん。今思いついた造語。2度と使わないかも.. 笑) は、自分の集めたしるしから、大きなしるしを見つける助けにならない。

だから慣れない頃は、自分で答えられそうかどうかを意識しながら、問いをつくる (見つける) 練習をするのがいい。最初は、他の人がみたらどうでもいいような、小さな問いしか浮かばなくても気にしない。自分が生活しながら出会う、心から不思議に思うことを記録するのも大切だろう。集まったしるしを眺めながら、自然に新しい問いが浮かんでくるようになれば、しめたものだ。

たとえばぼく (生きものと珈琲がとても好き) の場合、こんな問いがノートに書いてある。

関東の真ん中にある似たような里山なのに、E 川沿いの谷津田のカエルの密度が、K 川沿いにある谷津田のカエル密度より何倍も高いのはなぜ?

珈琲屋 S で飲んだ酸味のある珈琲はおいしく感じなかったのに、珈琲屋 V のすっぱいやつがあんなに美味しいのはなぜ?

(うーん。どっちも、ほんとどうでもよさそうなことですね。でもまあ、そんなことが大切なヘンな人もいると思って、読んでください)

ひとつめの問いは、今年から K 川でカエルの調査をしている、真夏でも清々しい顔で調査をこなす T くんの話を聞いた日に書いたセンテンスと、7月の中頃にぼくが清々しくない汗をかきながら E 川の田んぼを歩いたときに思いついたセンテンスが、一緒になってできたもの。

ふたつめの問いは、いつもは無難な苦い珈琲 (ぼくは原則、深煎りの苦くて厚みのある珈琲が好き) しか注文しない珈琲屋 S で、たまたま酸味のある珈琲を頼んだら、これが舌に合わず (ごめんなさい)、その瞬間に珈琲屋 V のカウンターの奥で楽しげにお湯を注ぐマスター H さんの「してやったり」顔 (やっと分かったかなー) と、あの酸味あるシャープなんだけどやさしい珈琲を思い出したときに、浮かんだもの。

Step 3. 答えになりそうなしるしを一か所に集める

あなた自身の問いができただけでも、大きな前進。つぎは、その答えの案になりそうなしるし、あるいは、その答えの根拠になりそうなしるしを、問いのセンテンスのそばにもってくる。

え、もう目処はついてる? 

そう。当たり前だけど、自分が答えられそうな問いをつくるために眺め尽くしたしるしコレクションの中には、答えになりそうなしるしや、その説明に使えそうなしるしが、ある程度揃っていることが多い。そこがミソ。

しるしコレクションを見ながら答えを探しているときに、説明になりそうなセンテンスを思いついたら、新しくコレクションに書き加えるのも、インチキではない。あと、心に余裕をもって、できるだけ頭をニュートラルにして、どこかに隠れているしるしがないか、自分のしるしを眺める時間をとるのがいい。たまにだけど、思わぬしるしが使えそうだと閃くことがある。そのときのワクワク感は、何ものにも変えられない。

Step 4. 答えの案とそのもっともらしさを説明する文章を下書きする

そして作文。答えの案と、それがもっともらしいことを説明する文章の下書を、しるしを並べ替えながらつくる。自然言語で書くことをとおして、答えの案をテストするのだ。

このステップでは、とにかく一通り書いてしまうことを目指す。最初に、地図代わりの仮アウトラインをつくる方が書きやすい、という人もいるだろう。細かいことは気にしない。言葉がまちがっていたり、論理的に不備がありそうでもかまわない。気になるところには、アスタリスクでもシャープでも、マークをつけて書き進む。

その下書きがうまく進まなくて、途中で作文がとまってしまうこともよくある。でも、あまり落胆しないこと。放っておけばいい。翌朝に読み直してみたら一気に解決、ということも多い。そのまま何年も未解決、というものもあるけれど、まあ、それもよし。

Step 5. リライティング

下書きができたら、それをリライティング。冗長な (同じことを繰り返している) 部分や、逆に説明が足りない部分、論理の飛躍などを意識しつつ、構成を練り直しながら、本文をつけたり削ったりする。ぼくの場合、下書きが長くなることが多いので、それをおよそ6割から半分くらいに短くしようとする感じ。

これも下書きと同じで、途中で行き詰まっても肩を落とさず、その段階でとっておけばいい。ちなみにぼくの場合、仕事以外だといつも7つくらい、こうした未解決の書きかけ文章がある。

そして、この下書きとリラインティングが、ここで説明しているやり方の要 (かなめ) である 。下書きとリライティングについては場を改め、それも手を変え品を変えて、書き続けたいと思っている。

Step 6. ひとつのセンテンスにまとめる

ここまで読むと長文をイメージするかも知れないが、できるだけ短い文章を目指すのがよい。身近で小さな問いなら、たとえば A4 にプリントアウトすると半分以下くらいの量がいいだろうか。もちろん、読みやすい大きめの文字にし、余裕をもった行間や余白で。

で、最後の1ステップ。その文章を、できるだけ短いひとつのセンテンスに要約する。どうしても無理なら2つのセンテンスでもいい。たとえばこんな感じ。

1年中水を張ったままの田んぼがあると、カエルの密度がとても高くなる。

南米北部の G という村で採れる珈琲豆を浅煎りすると、すっぱくて美味しい珈琲になる。

こうしてできたセンテンスが、あなたの集めたしるしから生まれた、より大きなしるしである。別の言葉にすると、しるしの階層を上がって手にした、より上位のしるしである。すっぱくても苦くてもいいからお気に入り味の珈琲でも淹れて、その成果をゆっくり眺めてほしい。

(おつかれさま..)


そして先へ進もう。たぶん多くの場合、そのセンテンスを書き下ろしたときから、あるいはその前から、つぎの問いができているはずだ。その問いを手にしるしを集め、このステップを繰り返そう。

ステップを繰り返す内に、関係したいくつかの答えの案を手にすることになる。たとえば、上にあげたカエルの例だと、こんな感じ。

1年中水を張ったままの田んぼがあると、カエルの密度がとても高くなる。

夏の田んぼに水があると、カエルになるオタマジャクシの割合が高くなる。

冬の田んぼに水があると、冬を越すことができるカエルの割合が高くなる。

この3つのセンテンスは、こんな形にまとめることができる。

年中水を張ったままの田んぼでカエル密度が高いのは、そこで生まれた卵が無事カエルにまで成長し、冬を越して卵を産む可能性が高くなっているから。

もし、そのカエルが絶滅危惧種なら、このしるしをもとに、カエルを絶滅から救う策を思いつくかも知れない。そうなれば、そのしるしは、自分だけが興味のある小さなものから、ほんの少しだけど、社会 (地球の未来?) に役立つしるしに近づいたかも知れない。

大きなしるしを手にしたあなたは、それ以前のあなたよりも、自分にとって意味のあるしるしが何かを知っていることに気づくだろう。大きなしるしがベースになり、あなたは、自分の集めたいしるしにフォーカスしやすくなる。最初よりも、より大きな問いを設定し、先へと進む可能性が高まる。


この6つのステップを踏むには、手間と時間がかかるように感じる人も多いだろう。でもやってみれば分かると思うけど、慣れてくれば、それほど時間はかからない。

小さな問いで、実際にデータを採ったり、文献を集めて読んだりする必要がない場合は、たとえば1回の早起きでできるようになる。少し大きな問いでも、週末に2−3回珈琲屋で珈琲を飲むうちに、このステップを踏めるようになると思う。

逆の見方をすると、それくらいで解ける問いをつくるよう、それとなく心がけるのがコツかも知れない。


ここに書いたステップは、「アウトライン・プロセッシング」[3] と呼ばれるプロセスのひとつだと思っている。読んでお分かりのとおり、このプロセスは、情報カード、テキストエディタやスプレッドシート、あるいはリレーショナルデータベースなどをあつかうソフトウェアでも可能だが、一番やりやすいのは、アウトライナーのファイル上である。

アウトライナーは、アランのような真実を見抜く鋭い目をもっていなかったり、思考の技術を磨くチャンスに出会わなかったりしたぼくたちに、本当のしるしを見つけ、それをもとに豊かに生きる可能性を与えてくれる、思いやりいっぱいの道具なのである。

  1. Tak. 2015. 階層を上がる思考. Word Piece
  2. アラン (神谷幹夫 編訳). 2015. 生きること信じること (預言 17ー19ページ). 岩波書店, 東京.
  3. Tak. 2015. アウトライン・プロセッシング入門.


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