on outline processing, writing, and human activities for nature
始めている仕事にはこれからやろうとする動機よりもずっと深い意味がある。
フランスの高校で哲学の教師をしていたアランは、『幸福論』の一節でこう書いている (神谷幹夫訳, 岩波文庫)。
(高校に哲学という科目があるなんて、そして哲学専門の教員がいるなんて、とても羨ましい)
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あるプロジェクトを進める作業にとりかかることは、机上 (頭の中) で考えていたプロジェクト、つまり、あなたの抱いている希望を事実にする作業である。
そしてそれは、とりかかった作業の階層スケールに身を置くことでもある。ここで言うスケールとは、見渡す範囲と解像度のこと。ぼくたちは、このスケールを使って、たとえば自分のやっていることやこれからやろうとすることを評価する。ものさしと呼んでもいい。
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仕事に身が入らないという状態は、そのプロジェクト階層のスケールに乗りきれない状態を指すとぼくは考えている。
とりかかろうとしているプロジェクトの階層と別階層に自分がいて、その違う階層スケールから、これからとりかかろうとするプロジェクトや作業を評価している状態。
たとえばプロジェクトAの作業 a1 にとりかかる時間になっても、その前のプロジェクトBのスケールに乗っかったままだと、作業 a1 でできる前進をうまく評価できないこともある。
スケールAの上で進捗ゼロの状態でも、スケールBから見ると大きなプラスの一歩に見えたり (希望)、大きなマイナスの一歩に見えたり (恐れ) することもある。
その結果、作業 a1 にとりかかる気持ちが小さくなってしまう可能性もある。
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そして、ここがアランのすばらしい点と思うのだけれど、彼は、とりかかりたい作業スケールAに自然と乗っかるためのコツを示している。
それは、まず作業を始めてしまうこと。たぶん、仮のものでも小さなものでもいい。
たとえば、あなたが夢見るテーマについて本を書くことが、このプロジェクトAだったとする。しかし、まだ何も手がついていない。
このプロジェクトAを実現するコツは、すぐそのAの具体的な作業を始めてしまうことである。
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ぼくにとって相性がいいのは、10分でいいから、とりあえず作業を始めるやり方。
本を書き進めるスケジュールを考えたり、本の目次、つまり仮のアウトラインをつくったりするだけでなく、本のアウトラインの中へ入り、すぐに書けそうな章や節の本文をフリーライティングする。
翌日のプロジェクトAの時間になったら、まずフリーライティングを読み直しながら、そのつづきとして本文を書き始める。
前のフリーライティングを読んだり、つづきを書き始めたりすることで、直前に進めていた別プロジェクトのスケールから自然と距離を置くことができ、楽にプロジェクトAのスケールにフォーカスできる。
仮にでもいいから、そして小さくてもいいから事前に始めておくことで、今の作業を進める自分スケールの上に根が生え、出発点が根に制約されることで、見る範囲を安心して限定しながら解像度を上げることができる。
そして、解像度が上がったことで、今まで見つけられなかった新しい選択肢を発見する可能性も高めることができる。
制約とフォーカスの効果、と呼べばいいだろうか。
この効果は、アウトライナー論の Tak. さんの言うシェイクの鍵になるメカニズムのひとつだと、ぼくは考えている。
そして言うまでもなく、この制約とフォーカスの効果は、文章書きとは関係のないプロジェクトにも応用できる。
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最後にもうひとつ、このやり方が諸刃の剣であることも、知っておく必要がある。
始めている仕事のやり方を使えば、あなたの生活にとって望ましくない作業に時間を費やし、それなりの成果を生み出す可能性も高くなる。
では、あなたが望む作業の成果を手にするにはどうすればいいのか。そもそも、望ましくない作業って何なのか。
そういう課題への方策として、ぼくは、日々の生活をとおして自分のアウトラインを育てること、あなたがそのあなたのアウトラインの構造を意識しておくことが鍵になると考えている。
ここで言う「あなたのアウトライン」とは、上で説明したスケールの階層構造のようなもの。具体的にアウトラインの形をしていなくてもいい。生活の中でいいなと感じたり、大切だと考えたりしたことのリストのようなものであり、たとえばアウトラインのような階層構造をもったダイナミックなリストを指している。
そして、このアウトラインのものさしを、アランは「信念」と呼んでいるのだと、ぼくは予想している。もちろん彼は、アウトラインなんて言葉を一度も使っていないけれど。
眺めていないでそれにすぐに近付き取りかからねばならない。幻影をなくすために。それが希望などは棚に上げて、信念を持つことである。壊すこと、そしてつくり直すこと。
そう。信念とは、壊し、つくり直すことで手にするものなのだ。