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ecology of biodiversity conservation

notes

on ornithology, ecology, conservation of biodiversity, natural history, evolution, outliner as a personal dynamic media, and writing


Moleskine notebooks and Peter in Mongolia. January 10 2015

今、いちばん使っているノートは、黒いハードカバーで白地の Moleskine。フィールドの記録はもちろん、室内でもキーボードの右横に置いて、たとえば手書きチェックリストを書きくわえたりマークしたりしながら作業すると、仕事もはかどることが多い。でも、この手書きノートを使うのは、効率性が理由ではない。Moleskine を使うのは、モンゴル北東部のステップを3週間一緒に車で旅した Peter に倣ってのこと。

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Peter については、米国人の作家で、小説や旅行記、野生生物を題材にしたノンフィクションの作品を出している、ということしか知らない。でも、彼と過ごした3週間で、大切なことをいくつも学んだ。中でも一番は、老いというものの良さを感じることができたこと。彼は当時すでに、70才を優に超えていたと思う。

Peter は、いつも書いていた。車がとまるたびに (この地域にくらすツルの調査がぼくたちの目的で、作家の Peter は自費でその調査に同行していた。まだモンゴルの旅行が簡単ではない頃だった)、モンゴルの研究者が野営地で食事を用意してくれているあいだに (基本はヒツジで、ヤギはご馳走)、そして夕食後、3か国語 (モンゴル人5人のモンゴル語、そのモンゴルファイブとぼくのロシア語 [ぼくは少しだけ]、そして米国人2人とぼく、モンゴル人1人の英語) がごちゃごちゃに飛び交うお酒の場でも、黒いハードカバーの Moleskine に書いていた。

彼の話す英語は難しくて、随分と鍛えられた。興がのってくると話している相手に you とは言わず、this guy と呼んだ。そして、自分は tough nut だと、いつも嬉しそうに言っていた。Google する気になれなくて、今でも一般的にどういう人を指す言葉なのか知らないが、彼をみてできた tough nut のイメージは、「ちょっとやそっとでへこたれない、たくましい子どもみたいな頑固オッさんないしジイさん」である。

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調査がある程度軌道に乗って、でもちょっとみんなが疲れてきた2週間目のある夜。お酒の場でよくあることだと思うが、モンゴルの研究者の Bold さんがくたびれた顔で、若いモンゴル人たちに何かを話していた。モンゴル語はほぼわからなかったけれど、愚痴っぽい会話であることは分かった。

「Bold は、何を話しているのかな?」

Bold さんの話し方が深刻そうだったからだろう、Peter が唯一英語を話すモンゴル人 Chuuka に、そう尋ねた。

「フィールドワークがしんどくなった。もう自分も歳だって言ってる」Chuuka の上手な英語は、単語の使い方やアクセントがロシアの人の英語に似ている。

「そうか。で Bold は何才?」と Peter が返す。

まだ若い Chuuka は、Bold にうやうやしく尋ねる。ぼくの印象では、モンゴル語はゆっくりと地面を這うような低くて長い音から始まり、どんと巻き舌のようで喉を鳴らすような、ドイツ人の r のような強い音が入って終わることが多い。このリズムが、ぼくは好きだった。

「60才だって」

Peter は、なんだよって顔をした。

「まだガキじゃないか」

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米国人の Jim とぼくは声を出して笑ってしまった。Chuuka が伝えると、Bold さんたちも笑った。ランタンに照らされた即席のサパー用テーブルを囲んだみんなが笑った。そうか、60 になって初めて学べることもたくさんあるんだ。Peter は、自分が笑われたことに少し不満そうだったけれど。

見上げると、雲ひとつない星月夜。見渡す限り (たぶん半径50km以上) 建物どころか人がひとりもいないモンゴルステップの夜空は、地平線のすぐ上まで真っ黒で、直接宇宙を見ているようにたくさんの星が見えた。天の川が銀河系を横から見ているんだということを、頭ではなく心で理解できた。

大きな夜空の下の小さなランタンを囲んだ笑い声。それから自分の年齢を感じることが、少し楽しくなった。歳をとるのは、いいことでもある。

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だから Moleskine ノートを使うのは、使いやすいことが理由ではない。この手書きノート使うのは、モンゴル北東部のステップを3週間一緒に旅した Peter に倣ってのこと。彼は自分が tough nut だと、いつも嬉しそうに話していた。



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