gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


Moondust

ドラマ『The Crown』シリーズ3の第7話がよかった。タイトルは「Moondust」。月の塵と訳せばいいだろうか。Midlife crisis を迎えた Philip、英国女王 Elizabeth2世のだんなさんである Duke of Edinburgh の物語。

舞台は、アポロ11号が月に着陸し、地球全体が盛り上がった1969年。Philip は、アポロ・プロジェクト成功のニュースを熱心に見ながら、そして、Neil Armstrong ら宇宙飛行士やプロジェクトに関わる人たちの行動力に魅入られながら、落ち込んでいく自分をどうにもできない。

極端な筋トレ(ポロの練習)に励んだり、小型ジェット機のやや無茶な操縦(彼は飛行機の操縦ができる)をしても、気持ちは晴れない。いやむしろ酷くなるばかり。そういう Philip の姿を見て、Elizabeth がある手を打つという、これまたおそらく、実話にもとづいた作品。

Midlife crisis(middle age crisis とも呼ばれるらしい)を日本語でなんと言うのか調べていないけれど、ぼくは、おっさん期(女性も含む)の憂鬱、と呼ぶことにしている。

英語のオンライン情報によると、このおっさん期の憂鬱は、他人の成功、とくに大きな成功を耳にすればするほどブルーになってしまうような状態を指すらしい。

同僚や部下の成功話を聞いてるだけでうんざりだし、言いようのない焦りと自分にはもうそんなことできない(と、きっとみんなそう思っている)という喪失感、そして認めたくないけれど、成功した人への嫉妬心もゼロではないだろう。

だれが決めたのかも知らないけれど、これまたオンラインの情報によればおっさん期(女性も含む)、つまり midlife の期間は40歳から64歳(なぜ65歳じゃなくて64歳なんだろう)。

おっさん期の憂鬱は、おそらく自分にはどうしようもない残酷とも言える大きな物理的な時間の流れというか、出来事の流れというか、変化しつづけることを有無を言わせず見せつけられて、その前で自分というものの限界を思い知らされているからなのかなと、今のところ想像している。

さて、物語の Philip は、幸運にも月から帰還した Armstrong たちアポロ11号飛行士3人と直接話す機会を得る。世界中を凱旋する旅の途中で、彼らがバッキンガム宮殿を訪れることになったのだ。

しかし、Philip が Armstrong たちと話せる時間はわずか15分。彼は、とっておきの質問をするために、質問リストを何度も書き直す。そして、いよいよアポロ飛行士たちがバッキンガム宮殿にやってきた日、意を決したかのように見える表情で、彼が口にした質問は..。

会見のあと、Elizabeth とひとしきり話した彼は、亡き母が最期を過ごした部屋に佇み、やがてある場所を訪れる。そこにいる人たちに打ち明けたことこそ、Philip が自分でたどり着いた答えの案である。そこにいたるプロセスの描き方がすばらしい。

ここで敢えて、Philip の答えの案のキーワードを明かすと「faith」。字幕では「信仰」と訳されていた。たぶんそれは間違いではない。でもぼくは、もう少し広い意味を指しているように感じている。

信じること。自分を、他人を、人間のすべてを、他の生きものを、この地球のすべての出来事を、そして、この宇宙そのものを信じること。

では、信じるとは何か。それを、あなたにも考えていただきたい。

監督 Jessica Hobbs、脚本 Peter Morgan の作品で、公開は2019年。これまた、少し元気になる、観て得した気分になる作品。