gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


リストフリークは仕事術フリークである

 

The list is the origin of culture. It's part of the history of art and literature.

リストは文化を生み、芸術と文学の歴史の一部でもある。

(Umberto Eco. 2009. Spiegel Online)

 

リストを好きな人たちがいる。

有名なところだと、作家であり記号論学者でもある Umberto Eco やアウトライナーやブログ、ポッドキャストの父と呼ばれる Dave Winer。

そしてぼくの予想では、GTD で有名な David Allen や「Power of Less 減らす技術」の Leo Babauta、Bullet Journal の Ryder Carroll もかなりのリストフリークじゃないだろうか。

リストフリークは、まずはリストをつくろうとする。

たとえば、地球上で記録されたすべての鉱物や生物のリスト。あるいは、たとえば過去100年のあいだに神奈川県で確認されたチョウのリストや、科学博物館やブリジストン美術館が所蔵する全資料のリスト。Charles Darwin が飼育したハトのリストに、Ernest Hemingway が所有したタイプライターに万年筆、鉛筆のリスト、等々。

それらは、ある条件を満たすこの世界の構成要素すべてを列挙しようとする人々の野望の歴史であり、有限でありながら無限をも表現しているように見える。

身近なところだと、今自分が抱えている大小のタスクのすべてを羅列したリストや、自分を幸せな気分にしてくれるものリスト。それから、今年ぜひ買いたいものリストに、捨てるものリスト。今年読んだ本のリストや感動した映画リストなども、よく見かけるリストのひとつ。

リストフリークにとって、リストをつくること自体が幸せの瞬間であり、出来上がったリストを眺めるだけでニヤニヤしてしまう。あるいは、大きな満足感を心から味わうことができる。

リストフリークは、自分がつくりあげたリストの一部を公開する。

たとえば、本や目録、論文や報告書として出版したり、オンラインのデータベースや自分のブログにアップロードしたり。

似たことに興味を持つ人や似た問題に直面している人にとって、公開されたリストは、リストとしてそこに存在しているだけでそれなりの価値を持つことになるし、他のリストと並べることで、さらに新しい価値を産み出すことは、皆さんよくご存知のとおり。

リストフリークは、自分のリストを操作する。

たとえば、自分を幸せにしてくれることベスト10。大きなリストの中から、特定の数だけの項目を選ぶことで、選ばれたものと選ばれなかったものという構造ができる。

元になった大きなリストと選ばれたもののリストが並べられるだけで、そこに新しいメッセージが生まれる。

選ぶ過程で新しいアイディアが生まれるときもある。

たとえば、自分を幸せにしてくれることの中には、ちょっと落ち込んだときにやってみるといいことと、逆にちょっと元気なときにさらに元気を増してくれることがある。それを区別してリストにするのも楽しいかも知れない。

アウトライン・プロセッシングの、階層構造をつくる作業である。

リストフリークは、リストを操作する道具に磨きをかける。

有名な例であれば、David Allen の GTD。Ryder Carroll の Bullet Journal ももちろんそのひとつ。

おもしろいと思うのは、Leo Babauta。彼は、減らすことを道具としている。

たとえば、今日やりたいことは、3つにまで減らす。やりたいタスクひとつずつのサイズを減らす、つまり、タスクのひとつひとつを小さくする。

成功の基準を低くし、場合によってはとにかく10分やればそれで良しとする。いやいや、それすらできなくても構わないことにする。それから、それから..。

勘違いかも知れないけれど、彼らがこうした道具を磨き上げ、他の人も使える便利なものに仕上げることができたのも、リストフリークだからこそというのがぼくの仮説。

リストフリークは、リストが生きていることを知っている。

きのうつくった、自分を幸せにしてくれたものベスト3のリストが、今日はもう少し変わり始めることもある。

嫌いなものベスト3のトップにあったことが、明日には幸せな気持ちにしてくれるものリストの50番目にやってくることもある。あなたの to-do list が毎日、いや30分ごとに変化するように。

だからリストフリークは、生きたリストを育てつづける道具を大切にする。アウトライナーのようなソフトウェアだったり、Bullet Journal のような紙のノートだったり。

ぼくの予想では index card や、それを収納して整理しつづけるあの引き出しが一面に並んだ棚や壁も、おそらくずっと昔のリストマニアが開発したものではないだろうか。

Leo の「減らす」という道具も、この操作に役立つ。

たとえば、項目を3つにしぼったリストなら、カードやソフトウェアを使わずに覚えていられるし、頭の中で並べ替えたり一部を入れ替えたりと気軽に操作できる。

項目を減らすことでリストを暗算で操ることが可能になり、大切なリストをダイナミックな形で維持できる。

そして、こうしたダイナミックなリストの操作こそ、知的生産の技術そのものであり、日々の生活のタスクを楽しくこなす大切なカギであることを、ぼくたちは知っている。

リストは生きている。

だからこそ、リストフリークは仕事術フリークでもあるのだ。

最初に引用したインタビュー記事の中で、Umberto Eco はリストについて、こうも語っている。

We like lists because we don't want to die.

ぼくたちがリストを好きなのは、死にたくないからだ。