Title : Knowing but not doing: selecting priority conservation areas and the research–implementation gap
Authors : Knight AT, Cowling RM, Rouget M, Balmford A, Lombard AT, Campbell BM
Journal : Conservation Biology 22, 610–617 (2008)
Notes : 保全研究と実際の保全活動のギャップ “Research-implementation gap” を示した初期の研究のひとつ。保全生物学でも最重要の分野である保全モニタリング conservation monitoring (保全優先度の高い場所を特定することなどを目的とする) 研究を取り上げ、その多くが実際の活動への応用そのものではなく技術開発を目的としていること、その結果、実際の保全活動に結びついていない研究が多いことを指摘した点が、この論文のウリだと思う。ややラディカルな議論も印象的。
ただし、その実証方法が甘い印象。論文著者を対象としたアンケート調査の結果が主で、このギャップがあるとする根拠も、実際の保全活動に適用された論文の割合が小さかった (全体の1/3) ことだけである。保全活動側の情報、少なくとも関連する保全プロジェクト数と、その中で保全研究の成果を取り入れた研究の割合などを、示す必要があるのではないだろうか。
Overview
1. Backgrounds
保全アセスメント conservation assessments とは、保全対象となる候補地を空間明示的に評価する技術である。保全生物学 (Soule & Wilcox 1980) という分野が誕生したときから、この保全アセスメントの研究の重要性は広く認められ、発展してきた。残念ながら、この保全アセスメントの研究成果が、実際の自然の保全活動に還元されることは、めったになかった (e.g. Knight 2006)。この “knowing-doing gap” (Pfeffer & Sutton 1999) と呼ばれる現象は、この保全アセスメントの研究に限らず、応用化学の分野で広く見られる。しかし、保全科学の分野で、このギャップを埋めるにはどうすればよいかという問題は、ほとんど注目されてこなかった (Ehrenfeld 2000)。
2. Aims
この研究では、保全アセスメント研究論文の著者などを対象にアンケート調査を行ない、1. この分野の研究デザインと実際上の保全活動のあいだにギャップが存在するか、2. 研究目的はその成果が応用される可能性に影響するのか、そして 3. 研究を活動に応用した効果はどの程度だったかを調べ、その保全研究デザインとその応用の実態を批判的に検証することを目的とした。
3. Results
3.1. “Research-implementation gap” は存在するのか
保全アセスメントに関する査読雑誌 (投稿された原稿を複数の査読者が審査する雑誌) をレビューし、保全計画の中で、研究とその応用のあいだにギャップがあるかを調べた。
レビュー対象としたのは、1998年から2002年に査読雑誌で発表された論文。この期間にしぼったのは、保全アセスメントという分野がまだ若いため、あまり昔の似たテーマの研究を対象としても基礎概念が今と大きくちがっていること、そして、発表された研究が実践に使われるまでに 4−5年の時間が必要と考えたからだ。
159 の保全アセスメントを目的とした研究の著者にアンケート調査を行ない、88 件 (55.3%) の回答を得た。このうち 29 の研究 (33%) が実際の保全活動に応用されていた。残りの研究は保全活動に結びついていなかった。
3.2. 研究目的はその成果が応用される可能性に影響するのか
これらの研究目的と、それが保全活動へ実際に応用された割合の関係を、アンケート調査によって調べた。その結果、回答のあった 88 件のうち、26.1% が、目的として保全活動への応用を挙げており、6.8% が、活動への応用と研究技術の改良の両方を目的としていた。そして、70% の研究の目的は技術の改良だけだった。
これら目的別にみた3つの研究グループの中で、実際の活動に応用されたものの割合を見ると、活動への応用を目的とした研究で 94%、活動への応用と技術開発の両方を目的としたもので 83.3% と、高い割合だったのに対し、技術開発のみを目的とした研究ではわずか 11.7% だった。
3.3. 研究を活動に応用した効果
上記 29 の保全アセスメント研究を適用した保全活動 108 のうち、研究成果がその活動に「高い効果」をもたらしたと評価していたのはわずか 13% (n=14) の活動だった。58.3% (63) の活動が「ある程度効果的」、そして 19% (21) の活動が「ほとんど効果なし」と評価していた。
4. Discussion
研究と実践のあいだのギャップは、たしかに存在する。そして、査読雑誌に掲載された保全アセスメント研究の大部分が、保全活動への貢献を目的としていないことは、重要な問題である。保全アセスメントの科学は、その道を見失っている。
*: この概要は、個人のノートとしてまとめたものです。できるだけ原著の内容を反映させる努力をしていますが、まちがいが含まれている可能性もあります。興味をもった方は、原著にあたることをお勧めします。また、まちがいに気づいた方は、ぜひお知らせください。