テキストデータの特長として、長期にわたって残りつづけることが比較的容易、という点があげられる。画像や音の保存や伝達技術があがった現在だからこそ、その長所が飛躍的にのびている。
たとえば、21世紀に生きるぼくたちが、ごくかんたんに、紀元前4世紀のプラトンの『国家』を読んだあとで、13世紀を生きた吉田兼好のブログのようなエッセイを楽しむこともできる。
それは文字の発明に始まり、テキストデータを保存するためのさまざまなシステムの開発と改善をつづけた人たちの遺産である。そこに記録される知識体系の素晴らしさと、その構築に人生をささげた人たちの勝利の証である。
それを思うと、ぼくは humanity に大きな価値を感じる。人間に生まれたことを、誇りに感じる。もちろん人は、今でも愚かと思われる行為をつづける。だからといって、絶望してはいけない。
はるか数千年前から、そういった絶望感に負けず、人の負の部分を少しでも何とかしようと努力してきた人たちが、無数にいたこと。その努力が世代から世代へと、連綿と受け継がれてきたこと。
それを過大評価し、人間であることに胡座をかいてはいけないけれど、それを意味のないことだと絶望することも、まちがっている。
(January 3, 2016)