たぶん、一晩と半日のできごとで
9才になる息子をもつ父親のはなし。
夜、熱っぽい顔をしたその少年をみて、私は医者を呼ぶ。
熱を測ると102度。
インフルエンザで、肺炎にならないかぎり大丈夫との診断。
しかし、少年はあまり眠らない。
そばで見守る私。
やがて夜が明け、そばにいなくても良いという少年の言葉に
犬をつれてウズラ撃ちにでかける。
群れをみつけ、2羽をしとめ、5羽に逃げられた。
別の群れもみつけたが、そいつは今度の楽しみにと
家に戻ると青ざめた少年がいる。
体温を測ると、やはり102度。
その数字に少年は自分の死を覚悟していた。
「自分はいつ死ぬのか?」
越してくるまえフランスの学校で聞いた、
体温が44度を越えると人は死ぬという言葉を覚えていたから。
でも、それは摂氏。
マイルとキロメートルのように、華氏と摂氏で温度はちがう。
そう私が説明すると、少年は安心して眠りについた。
ただそれだけのできごとが、芸術になる。
人知れず生きる、強く気高い老人と厳しくて大きな海との
戦いを描いた作品もそうだけれど、
この Hemingway [1] からも
書くことの醍醐味とよろこびが伝わってくる、気がする。