on outline processing, writing, and human activities for nature
その人は、両親の希望もあり大学院や大学、ハイスクールや小学校を卒業しなかった。大戦のせいもあっただろうか。
その人は、哲学や数学、物理学や生物学を学ばなかったし、たぶんそれが原因で、他の人たちに負い目を感じていた。
だから、自分の知識と実力で大学院や大学を出て仕事を勝ち取り、リーダーになったように見える人たちに劣等感をもっていたかも知れない。
にも関わらず、その人はそんなリーダーたちと仕事しなければいけなくなった。しかも彼女は、リーダーたちよりずっと若い27歳。
リーダーと二人になるのが怖い、会話が始まると好きな犬や馬の話に逃げてばかりなのが嫌だと、彼女は母親に嘆く。
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ところがある日、彼女は、リーダーたちが過ちを犯したことを、偶然知ってしまう。
彼女には、リーダーの過ちを指摘する自信がなかった。誰よりも聡明で威厳ある、あのリーダーたちに太刀打ちできるはずがない。
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彼女は、そばにいたある年配の男性に、たぶんグチを聴いてもらうつもりでその状況を説明すると、「あなたは哲学や数学を知らなくても、誰よりも憲法について多くを学んでいる」と教えてくれた。
たしかにそのとおり。彼女は、小さな頃から憲法のすべてを叩き込まれていた。
彼女は14歳の頃、ノートに記したあの言葉を思い出し、過ちを犯したリーダーたちとの話し合いに向かう。
そのリーダーとは、時の英雄であり英国首相でもあるウィンストン・チャーチルと、名門貴族議員のソールズベリー侯。彼らはチャーチルが脳卒中で倒れた事実を、二週間以上隠していたのだ。
それが如何に重要な憲法違反であるか、彼女は落ち着いて、でも力強く問い詰める。
肩を落とし、途方に暮れるソールズベリー。その場に愕然と立ち尽くすチャーチル。どちらもぐうの音も出なかった。
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当時27歳だったその彼女の名前は、エリザベス2世。
そう。義務教育過程の卒業証書すらもたないエリザベス2世は、勇気ある決断をし、自分のもつ知識と創造性を総動員して、英国の外交と内政の危機を救ったのだ。
これは、Left Bank Pictures と Sony Pictures Television が Netflix のために制作したドラマ The Crown シリーズ1の7つ目のエピソード。タイトルはラテン語の Scientia Potentia Est。Knowledge is power つまり、知は力なり。
監督 Benjamin Caron、脚本 Peter Morgan の作品で、公開は2016年。観てちょっと得した気分になる、元気にしてくれる物語。