gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


万年筆の書くメカニズムを考える #3

(いよいよ連載の最終回)

さてつぎは、万年筆の外からインクタンクへ空気をとどける溝の構造を見てみよう。はたして予想どおりフィードの下面にあるのだろうか。

まず、フィードのペン先側。下面に想像より幅広くしっかりした溝がつくられている。よしよし。

え、でもよく見ると、その太い溝はフィード後端 (タンク側) の手前で終わっている。つまり、この溝から直接インクタンクに空気が届かない。

つまり、空気は別の道をとおってタンクに届くということ。それはどこだ?

フィードの横に並んでいるたくさんの細い溝があやしい。たしか、フィン (fin) って名前がついてた。魚のエラに似てるってことだろうか。で、このたくさんのエラの隙間の行く先を見ると、フィードの上側、細くて深い溝の上端につづいている。

つぎに、前回外したフィードの蓋の裏側を見ると、たぶん 0.1mm くらいのわずかな隙間がフィード本体と蓋のあいだにできるように二本の細い突起がつくられている。この蓋と本体の隙間を空気がとおって、インクの流れる深い溝の上側に流れこむようになっていのだろう。

空気穴はまっすぐタンクへとつながっているのではなく、フィンの隙間をとおって垂直にフィード上面へ流れ、蓋とフィード本体のあいだの隙間をとおってインクの流れる溝上端に合流しているのだ。

このことから、フィードの中心から上部につくられた細くて深い二本のインク溝には、インクと空気が、たがいに逆方向へ流れていることが分かる。インクは、浸透圧によってタンクからペン先 (ニブのスリット) へ進もうとする。一方、空気はインクが減ったことでできたタンク内の陰圧によって、ペン先 (フィード先端裏側の穴) からタンクへと進もうとする。

そして、新しい疑問が生まれる。なぜ、こんな複雑な空気の流れをつくっているのか。

で、インクと逆方向の空気の流れは空気をインクタンクへ届けるだけでなく、インクの出具合を調節する仕事もしているのではないか、という答えの案を思いつく。

万年筆の書くメカニズムをテキトーに考えたあとに自分の目で確かめることで、新しい疑問ひとつとその答えの案を手に入れることができたワケだ。

あと、小さな発見も三つあった。まず、フィードの中をインクが流れる溝は二本。これは Lamy の万年筆だけの可能性も高い。つぎに、その溝は細くて深い。そして、外の空気はフィンをとおってインクの溝に合流してからタンクへ届く。

以上の作業にかかった時間は、組み立て直す時間も入れて30分ほど。

万年筆に限らず、道具をデザインする人たちの多くは、こうした道具の機能を高めるためのすばらしいアイディアを道具そのものをとおして表現しているのだと、感じることが多い。

そして今回紹介したプロセスは、道具を使う人が、それをデザインした人と会話するいい方法じゃないかと、ぼくは考えているのですが、いかがでしょうか。

 

(おしまい)