gofujita notes

on outline processing, writing, and human activities for nature


Altrincham

ドラマ『The Crown』、おもしろそうなタイトルから隙間時間で観ています。移動途中、論文などを読みくたびれたとき、その気晴らしに5分から10分、細切れに愉しむことが多いでしょうか。

シーズン2のエピソード5を後回しにしていたのですが、同シーズンの気になるタイトルを愉しんだあとに観はじめたら、予想外におもしろかった。タイトルは「Marionettes 操り人形」。

Lord Altrincham(字幕ではオルトリナム卿。ぼくには「おぅ(る)チュ(りな)ム」と聞こえることが多いです。カタカナを強くひらがなを弱く、括弧は聞こえないくらい)は、1950年代後半の英国で立憲君主制改革のきっかけをつくり、英国王室を救った人物とされています。そのはじまりのエピソードにフォーカスした物語です。

Elizabeth2世は、当時伸び盛りの自動車メーカー Jaguar の工場を訪れ、女王第一個人秘書(たぶん女王に最も近い最高位の秘書)が書いた原稿を、そのまま読み上げます。その内容が父権主義、労働者蔑視の内容を含んでいたことが、その後の大きな転機に繋がったという物語の流れです。

Altrincham は、貴族でありながら当時の王室のやり方を痛烈に批判し、保守的な存在の象徴でもある王室を大きく変えることで、共和制が普通になった時代の立憲君主制のあり方を示した人物。

Altrincham 本人のインタビュー動画を YouTUBE で観ると、制作スタッフがいかにその場面を大切にし、雰囲気を忠実に再現するために大きな努力を払ったのかを、改めて実感しました。Altrincham はそのあと爵位を捨て、John Grigg と名乗ったそうです。この実話もよかった。

一番印象に残ったのは、この「政治家になりそこなったジャーナリスト」の出版する雑誌 National and English Review に書いた記事に、まず英国の人々が大きく反応し、政府もそれを無視しない雰囲気が高まっていたこと。そして、その社会の動きに対して、英国宮殿が強い反発を覚えながらも耳を傾け、おそらく Altrincham 本人の提案を採用して行ったことです。それなりに、時間はかかったようですが。

たとえば女王が毎年クリスマスに行なうテレビ放送を通したメッセージなど、ぼくが何となく知っていた英国王室の多くの習慣が、この頃の改革によって生まれた可能性があるとは知りませんでした。

物語の後半に、Altrincham が王室に提案したリストが出てきます。始めるべきこと3つと止めるべきこと3つ。その使い方が、タスク管理好きのリストマニアとしては、嬉しいものでした。

物語の中心に直接関係しない、でも伏線にもなるシーンの描き方も印象的でした。

たとえば、女王が宮廷御用達のヘアーデザイナーにパーマネントをあててもらい新しいフェアスタイルにするシーン。あるいは、その髪を夫の Philip が酷評する台詞。そして、美しいヒース草原で、従者?の青年が照準を合わせたライフルを構え、女王が雄ジカを猟るシーン。どれもが当時の宮廷の微妙な old fashion というか out dated な部分、ちょっとずれちゃってるけど悪くない? でもやはり間違っているんじゃないかな.. というところをうまく描いていると思いました。

Altrincham が、編集会議の最中に同僚のつくったトフィーを食べて歯医者に行くエピソードも、彼の人柄をうまく描いているように感じました。彼が、恐れと戸惑いをもちながら、でも勇気をもって行動する姿。そして、憤りと戸惑いの中で変化を受け入れようとする Elizabeth2世の演技もよかった。

個人的に少し残念だったのは、字幕が自動車会社やテレビ局などの固有名詞を挙げていないこと。せめて Jaguar や ITV(当時は当時 Independent Television)などの物語の中心になるグループの固有名詞は、英語の台詞に沿って明示しても良かったのではないでしょうか。

大戦の痛手から抜け、世界の自動車技術をリードしていた英国の自動車産業の中で、ユニークな役割を担っていた Jagaur。あるいは、英国最初の民放 ITV の存在が、歴史の変化に少なからず影響したことを表現する上で、大切な鍵のように感じました。

監督 Philippa Lowthorpe、脚本 Peter Morgan の作品で。公開は2017年。